美容院・エステサロン業界における ビッグデータやAIの発展による影響・利用例
美容院では美容師、エステサロンではエステティシャンといった、専門家による接客や技術、ヒューマンパワーが肝心要だった時代が長く続いてきました。これからもヒューマンパワーは重要であることには違いありませんが、特に美容院では美容師の供給過剰な状況が深刻になっており、給与待遇も下がる傾向にあります。エステ業界もなかなか待遇が改善されません。
今後の美容院・エステサロン業界では、ビッグデータを活用する人工知能の力を借りることで、美容師やエステティシャンは人間にしかできない施術や接客に集中でき、その待遇も改善されていくと期待されています。そのほか、店舗にとっては集客施策にもAIを活用する道があります。
この記事では、美容院やエステサロンの業界で実用化が期待されている、AIやビッグデータを活用した次世代型システムの事例について具体的に紹介しています。
目次
ヘアスタイル提案アプリ
髪型を美容師に任せていたところ、自分では似合わないと思う髪型にされて、納得できないまま泣き寝入りをしてしまった経験のある人も少なくないでしょう。美容師も口頭で、できあがりのイメージを前もって説明しますが、言葉だけでは十分に伝わらないこともあります。
そこで、AIを搭載し、美容院が監修するヘアスタイル提案アプリによって、前もって自分の納得がいく髪型を見つけることができていれば、できあがりの理想的なイメージを美容師と共有し、安心して任せることもできます。
憧れの芸能人と同じヘアスタイルにしてほしいと希望する顧客も少なくありません。しかし、顔の特徴が異なるために、実際には似合わない場合もあるのです。
その人ごとに似合う髪型は、輪郭の形や大きさ、顔のパーツの配置などによって異なりますが、パターンはある程度決まっています。そこで、AIの画像解析によって顔写真から特徴を抽出し、その特徴に合った髪型のパターンをアプリがいくつか提案すれば、本人が最も納得のいくものを選択できます。
客観的・理論的に似合う髪型であるだけでなく、本人の抱いているセルフイメージにも合致した髪型でなければ、後でクレームに繋がるおそれがあるからです。数パターンの髪型を、AIが画像として出力し、最終的に本人に選ばせることによって、美容院へのクレームを抑制できるのです。
予約電話への自動応対システム
美容院やエステサロンでは、顧客から予約の電話が入ることが非常に重要ですが、予約受付専門のスタッフを配置していないことも決して少なくありません。よって、接客中の美容師やエステティシャンが手を止めて電話に出ることもあります。接客に集中できないために、十分に技術を発揮できない場合もあるでしょうし、片手間に予約電話に出るために、予約の日時を聞き間違えたり、メモを誤ったりするおそれも否定できません。
人手が不足している美容院やサロンにとって強い味方となるのが、AIが予約電話に対して自動的に応対する音声認識システムです。人の声を認識して、機械が適切に答えを返すシステムは、スマートフォンのGoogleアシスタント(Android向け)やSiri(iOS向け)ですでに実用レベルに達していますし、スマートスピーカーの分野でもAmazonがリリースしているAlexaがあります。つまり、既存の技術を美容院やサロンの予約向けに応用すれば足りるのです。
この自動音声予約システムであれば、24時間365日いつでも予約に応じることができます。また、音声認識によって、AIの合成音声がまるで自然に会話しているかのように、予約客に質問をしたり、希望を聞き取ったりすることも可能です。人の声を文書化できますので、予約電話の内容について要点のみを記録する機能も用意されています。電話での会話には無駄な内容が含まれていることがありますので、業務に必要な情報のみがまとめられていることも重要なのです。
セルフエステ用のチャットボットや映像解析
近ごろでは、エステサロンに備え付けてある美容機器を、顧客が自分自身で使って施術する「セルフエステ」が注目を集めています。エステティシャンの手による施術を受けるよりもリーズナブルな価格帯で利用できますし、中には月々定額で使い放題のサブスクリプションでセルフエステを提供しているサロンも続々と現れています。
そのように、エステティシャンに気兼ねなく、安価で気軽に始められるセルフエステですが、機械の使い方についてスタッフからの丁寧な説明が行われる場合は少ないようです。利用客は、マニュアルや映像解説などを見ながら、自分の判断でエステ機器を使用します。
それでも、機械の正確な使い方がわからない利用客がいるかもしれません。分厚いマニュアルから、ほしい情報を探し当てられない場合もあるでしょうし、サロン内のスタッフも手を離せず、問い合わせに対応できない場面があるでしょう。
その場合に、利用客はAIによって機能が裏付けられたチャットボットに問い合わせて、使い方の回答を得られれば便利です。チャットボットには、前もって想定される膨大なQ&Aが登録されていますが、それだけでなく、実際の問い合わせに回答しているうちに、機械学習によって自動的に修正し適切な回答文を出力できるようにもなります。
また、将来的には、セルフエステの空間に設置されたカメラが映し出した映像を、AIが自動的に解析して、間違った機器の使い方をしている利用客に対して警告を発することも可能になるでしょう。近ごろのAIによる映像解析は、ビッグデータの蓄積によって非常に優れており、どんな客層の人が、どのような表情や姿勢でいるかも検知し、何をするつもりなのかを推測できるようにもなっています。
施術が適正価格になり、エステティシャンの待遇改善に繋がる
綺麗になりたいという女性の需要は普遍的なものですし、最近では男性のエステ需要も拡大しつつあります。その点を考え合わせても、世間のエステサロンは供給過剰気味で競争が激化しており、地域によっては客の奪い合いにもなっているのが実情です。
もし、施術を低価格に設定したり、割引クーポンを発行したりしなければ、来客数を維持できないような状況が続くと、エステティシャンは安い給料で働き続けなければならず、疲弊してしまいます。そのせいで、エステティシャンが離職し、別の業種に流出する動きが止まりません。ひいては、若者にとっての魅力的な就職先としてエステサロンが選ばれなくなるおそれがあります。
この問題を解決するために重要となるのが、セルフエステとエステティシャンによる施術との、明確な棲み分けです。
セルフエステでは、素人の利用者でも使いやすい専用のエステ機器を導入しなければならないため、初期費用がかさみます。しかし、導入後は人件費がほぼかかりませんので、ランニングコストは安くなるのです。よって、利用料金を安く設定しても、採算が合いやすくなるのです。
そこで、AIが主導するセルフエステを低価格帯に設定し、プロのエステティシャンの手で施術するコースを高価格帯に設定できれば、人間の専門家は高級路線に集中することが可能となるでしょう。ひとりひとりの顧客に時間を掛けて丁寧なかたちで対応できますし、施術が適正価格となれば、エステティシャンの給与水準が上がり、待遇が改善されていくと考えられます。
エステ業界の将来を明るく照らすためにも、エステティシャンの待遇改善は急務です。
サマリー
美容院やエステサロンでは、専門家の人手が必須だとされてきたが、最近ではビッグデータ分析をできるAIの活用によって、専門家の仕事を一部代替できるようになっている。ランニングコストが安価で済むAIを、美容院やエステサロンに導入すれば、利益率が上がり、そこで働く美容師やエステティシャンの待遇改善にも繋がるものと期待される。