飲食業界における ビッグデータやAIの発展による影響・利用例
飲食業界は、店舗家賃や人件費などの固定費が嵩みやすいため、利益を出すことが難しい業態とされています。しかも、新型コロナウイルスによる感染拡大などで、人がほとんど出歩かなくなると、売上に深刻な打撃を食らいやすい弱点もあります。
そのような飲食業界の経営の難しさや弱みについて、解決策を与える有効な技術として期待されているのが、ビッグデータを分析して近い将来の予測に活用できるAIです。AIを有効に活かすことができれば、むやみに広告宣伝費を使って集客する必要がなくなり、一部の人件費を浮かせられる可能性があります。
この記事では、現代の飲食業界の救世主になりうる、ビッグデータの分析が可能なAIシステムの実用例について概説します。
目次
アプリと位置情報を応用してのリアルタイム集客
今までの飲食業界の集客は「ぐるなび」「食べログ」などの店舗紹介プラットフォームに依存している場合が多かったのですが、これでは積極的に飲食店を探しているユーザーのみにアプローチできる「受け身」の集客しかできませんでした。
一方で、飲食店の集客にAIを応用させれば、専用アプリをダウンロードしているスマートフォンの位置情報を検知してビッグデータとして分析し、最適のタイミングで至近にある飲食店のポップアップ広告を表示させるなど、飲食店を積極的に探していない人々に対してもアプローチすることが可能となります。
コロナ禍における料理のテイクアウト・デリバリー需要のAI予測
クロスロケーションズ株式会社が開発、提供している位置情報ビッグデータをAIによって活用するシステム、「Location AI Platform」によって、飲食店の周辺住民が潜在的に持っているテイクアウト需要や、Uber EATSなどによるデリバリー需要を予測し、需要が高そうな地域へ重点的に告知チラシをポスティングしたところ、実際に売上が向上したとの実績があがっています。
京都を本拠として展開している、五十家コーポレーション運営の『酒場トやさい イソスタンド』では、2020年3月以降、新型コロナウイルスによる感染拡大の影響のあおりで、売上が激減しました。今まではSNSでの告知しか行っておらず、コロナ禍の経営危機を救うほどの集客効果はみられませんでした。
苦しい状況を打開するため、ポスティング用のチラシを作成しましたが、ただ店舗周辺の郵便ポストへ投函するだけでは、まだ効果が上がりません。そこで、「Location AI Platform」によって、イソスタンドの顧客層や商圏をAI分析し、今後の見込み客となりそうな住宅を割り出して重点的にポスティング施策を行ったことで、新規客が増加し、少しずつ業績が上向いてきたのです。
AIを用いた予約管理システム
飲食店にとって、顧客からの予約対応は少なからず、店舗スタッフの負担になっています。通常、予約対応の専門スタッフは配置されていません。いくら忙しい状況にあっても、電話が鳴れば、厨房・ホールを問わず、誰かが手を止めて電話に出なければなりません。また、忙しい中での対応は、予約内容の記録で間違いを起こしがちで、トラブルやクレームの原因にもなりえます。
そこで、飲食店向けのAI予約管理システム「トレタ」では、24時間365日、店舗にかかってきた電話にAIが自動的に対応するサービスを盛り込み、好評を博しています。日時や人数の記録だけでなく、適切な予約席を自動的に手配したり、キャンセル対応したりする機能も備わっていますので、人材不足の飲食店でも重宝します。
予約内容に間違いが生じるおそれが劇的に少なくなりますし、予約客にとっても「電話がなかなか繋がらない」などのストレスから解放され、スムーズなオペレーションが実現します。
AIによる実店舗での自動接客
多くの飲食店舗では、人手不足にあえいでいます。客席数に対して、ホールスタッフの数が決定的に足りていないことが多く、料理の注文をしたい複数の客の間で、店員が取り合いになることもあるほどです。
一部の居酒屋チェーンやファミリーレストランなどでは、メニューが表示されたタブレット端末によって、オンラインで注文できるようになっています。これによって人手不足はだいぶ解消されており、顧客にとっても便利なツールではありますが、どの顧客に対しても画一的な反応しかできず、人間のスタッフによる接客を代替するほどの高い満足度やおもてなしを演出することが難しいのも確かです。
そこで、AIによって顧客を識別し、その個性に合った対応ができる次世代型のメニュー端末が開発・導入され始めています。たとえば、注文履歴などの顧客データを蓄積させて、顔認証機能を組み合わせることができれば、再訪客について「またのご利用を有難うございます」と表示したり、常連客に対して「いつものメニューでよろしいですか」と自動音声で確認させたりすることも可能です。
これからは、より自然な印象の合成音声を、顧客層に応じて使うことができるようになるでしょう(たとえば、顧客の異性にあたる音声で自動的に対応するなど)。また、人間との対話で臨機応変な返しができるマイクロソフトの「りんな」のように、アドリブを効かせたり、冗談が通じたりするなど、人件費を抑えつつも顧客満足度を向上させるAI接客も近い将来に実用化されるはずです。
精度の高い来店予測
現在でも、表計算ソフトなどを用いた統計によって、来店客数予測を行い、食材仕入れの調整やマーケティングに活かすことができます。天気予報を予測に活かすことも、すでにコンビニなどでは実用化されています。さらにビッグデータ分析が可能なAIを応用させれば、店舗周辺の状況をリアルタイムに読み込んだ上で、不確定要素まで盛り込んだ来店予測が実現します。
たとえば、「近隣の市民ホールで、人気の演歌歌手がコンサートを行うため、年配の女性客が増えそう」とか、「今度の日曜日には近くの小学校で運動会が開催されるため、夕方以降にファミリー層が増加しそう」などといった、柔軟な予測ができるようになるのです。この予測に従って、提供するメニューや食材仕入れを変更したりすることもできます。
バックヤードでの自動調理
来店予測の内容は、厨房のシェフやホールスタッフにも伝えられることで、より効果的なオペレーションが可能になります。もし、厨房やホールもAIによってコントロールされているロボットが対応していれば、店舗内での連携はさらに円滑に進んでいきます。
現在でも、回転寿司店舗の握り寿司ロボットなど、特定の料理を自動的につくるロボット技術は確立されつつあります。これからは、1台で様々な料理を自動的に作ってしまう汎用的な調理ロボットが、様々な飲食店の厨房で活躍していくことになるでしょう。
メニューの変更や急な来客増が起きても、AIが制御する調理ロボットは柔軟に対応します。
調理ロボットを導入しなくても、多数の注文に対応するための最も効率的な調理手順を、厨房のシェフに対し、AIが自動的にアドバイスする技術も実用化されていくでしょう。
また、厨房で発生した異状も、AIが自動的に検知できるようになります。たとえば、アルバイトの調理スタッフが、異常な盛り付けをしてその写真をSNSにアップロードしようとする「バイトテロ」の動きも、自動的に検出して警告を発したり、事前に予防したりすることも、技術的には可能になりつつあるのです。
サマリー
新型コロナウイルスによる感染拡大のあおりを、最も強く受けた業界のひとつが飲食である。売上が激減すれば、ホールや厨房に配備するスタッフの確保も難しくなる。そこで、飲食店の集客を支援したり、店舗内でのオペレーションを円滑に進めたり、顧客満足度を高めたりする目的で、ビッグデータ分析が可能なAIの導入が、様々な形で模索されている。
参考文献
集客、売上予測、人事の提案も。AI×ビッグデータが飲食店の舵を取る未来
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