『あなたの会社もブロックチェーンを始めませんか?』日本アイ・ビー・エム株式会社

by AIGRAM

目次

注目されるブロックチェーン

1. 現代は、デジタルトランスフォーメーションの時代

日本生産性本部の発表によると、2017年日本の時間あたりの労働生産性は、先進7カ国の間で最下位となっています。また、急激に進む少子高齢化に伴う労働人口の減少や、その他の要因により、人不足が深刻な問題になりつつあることは周知の事実でもあります。

これらの要因から、日本では、労働生産性の向上が急務となっています。これに向けて、現在、デジタル技術を最大限に活用して業務変革を実現する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が注目されています。

2. プラットフォームの発展

このような背景の中、先端技術を駆使しながら、使い勝手の良いインターフェースとサービスを提供する「プラットフォーマー」が台頭しつつあります。「プラットフォーマー」とは、消費者と事業者、あるいは事業者同士を結びつけて円滑なビジネスを支援する事業者のことを指します。

多くのユーザーがプラットフォームを活用することで、膨大なデータが集まります。これをIoTで収集するデータなどと掛け合わせ、AIを駆使して新たな知見を生み出し、サービスを充実させる好循環が生まれています。

これにより、プラットフォーマーたちは非常に高い収益を上げ、各分野で圧倒的な力を持つに至っているのです。

3. 情報利用に対する懸念の声

一方、ブラットフォーマーに対する風当たりが強くなっている面もあります。きっかけは、SNS上に存在する大量の個人情報の不正利用や情報流出です。これまでは利便性の高さと引き換えにして、無防備にも、個人情報をプラットフォームに預けてきたユーザーの警戒心は日に日に増しています。

このような背景から、個人や企業の所有する情報の二次利用同意については、自分自身で適切に管理しなければなりません。そこで、他者と情報の共有を自身で管理する、という自己主権的な考え方が必要となってきました。

4. ブロックチェーンの登場

この考え方を実現するのに、最も適した情報管理の技術が「ブロックチェーン」です。
ブロックチェーンに関する詳しい説明は「【書籍紹介】ブロックチェーン入門」で紹介しています。
ブロックチェーンを端的に説明しますと、次のようになります。

  • (1) 複数の組織でブロックチェーン・ネットワークを構成し、それぞれが同じ内容を持つ台帳を保有する。
  • (2) 一定の取引内容の塊を自身の台帳にブロックとして書き込む前に、組織間で合意形成を図り、不正の混入を防止する。
  • (3) ブロックには取引情報とともに前のブロックの情報から暗号技術を利用して算出されたハッシュ値を取り込むことで、前後のブロックの連鎖を作る。

これがブロックチェーンと呼ばれる所以です。

もし、悪意を持つものが特定のブロックの情報を改善しようとすると、そのブロックの新たなハッシュ値と、次のブロックに書き込まれているハッシュ値が別のものとなり、不正が発覚するようになっています。不正が発覚しないよう矛盾を解消するには、改めて参加組織の合意形成を取り続ける必要があり、実行するのは極めて困難です。

このように、情報連携のプラットフォームの改ざんが事実上不可能な形で、複数の参加者により共同運営していくのがブロックチェーンです。情報を預ける側は、ブラットフォーマーのような特定の第三者に全幅の信頼を寄せる代わりに、ブロックチェーン技術が生み出す信頼のもと、関係者と情報連携する形となります。

また、「スマートコントラクト」と呼ばれるブロックチェーン・ネットワーク上の共通のプログラムにより、組織間の取引にまつわる「プロセスの自動化」が可能となる点も大きな特徴です。

【書籍紹介】ブロックチェーンの特徴」でもブロックチェーンの特徴がまとめられていますので、興味のある方はぜひ御覧ください。

5. ブロックチェーン活用へ

依然、国内においては、ブロックチェーンはまだまだ実証・実験段階という見解も多いです。しかしながら、海外では商用サービスとして、本格展開するものが続々と登場し始めています。

今こそ、「ブロックチェーン技術」とそれがもたらす「ビジネス的価値」を正しく理解し、先行するグローバル企業の取り組みを注意深く学んでいく必要があると思います。

代表的なブロックチェーンの活用事例

1. 国際貿易プロセスのデジタル化

A. P. モラー・マースク(デンマーク)とIBMが共同で開発した「Trade Lens」について説明したいと思います。

Trade Lensは、貿易プロセスの可視化・効率化の実現を目指したブロックチェーンのプラットフォームです。2018年12月に商用サービスを開始しました。これまでは金融業界を中心に、活用が検討されていたブロックチェーンですが、Trade Lensは非金融領域での先行事例として非常に注目されています。

現在の国際貿易における事務作業は「情報のバケツリレー」とも言われています。売り手から海外に商品や荷物が届くまでに、フォワーダー、海貨業者、規制当局、税関、貿易保険会社、金融機関など多くのプレーヤーが関与するためです。

また、貿易取引においては、それらプレーヤー間で船積指示書や船荷証券、信用状など、さまざまな貿易書類が扱われ、その数は1つの取引で数十種類に及びます。これら多くのプレーヤーが紙やメールを中心とした情報連携をしており、あるプレーヤーが作成した紙書類を、次のプレーヤーが参照・転記して別の書類を作成するといった作業や、紙の貿易書類を郵便で相手国に送るなど、非効率的な作業が多く残っている状態にあるのです。

ちなみに、国際貿易事務における書類の処理に要するコストは、輸送コストの15~35%に相当すると報告されています。そのため、輸出入量ベースで99%強、金額ベースで70%強の貿易を、海上コンテナ輸送に頼る日本にとって、貿易プロセスの効率化は最も重要なテーマの一つと言えます。

Trade Lensは、国際貿易に関わるプレーヤー同士の情報共有基盤として機能します。これにより、情報のバケツリレーのような非効率な状況を解消し、海運業界のコスト削減と効率化の実現を目指しています。

現時点においてTrade Lensでは、「貿易イベントの通知」と「貿易資料の共有機能」が提供されている。これらをうまく活用するアプリケーションを構築することで、業務効率化につながる可能性があります。プラットフォームが立ち上がった現時点においては、基本的な機能の提供となっていますが、今後は、より高度な機能が提供される予定です。

2. ポイントプログラム

三井物産が設立したグルーヴァースが推進している、新しい「ポイントプログラム」についての事例を紹介したいと思います。それは「ウェルちょ(ウェルネス貯金)」と呼ばれるもので、一般的に普及しているポイントプログラムとは仕様が少し異なっています。

同社が構想したのは「人々が健康になるための消費行動が取れるような、インセンティブを用意できないか」ということ。それにより人々は健康になり、長生きしても健康でいられる可能性が高まると考えました。実現すれば結果として、医療費も減り、経済的にも助かることとなります。国にとっても、社会保険にかかる費用が減り、財政的にも助かるという理屈です。

この人々の消費を、健康になるための活動に向かわせるための媒体として考えられたのが、「ウェルちょ」というポイントプログラムです。ウェルちょでは「エール」というポイントを貯めます。通常のポイントプログラムと異なる点は次の通りです。

(1) 通常のポイントプログラムと異なる点

① エールは長期間にわたって貯められる

若い頃から健康に良い消費を行い、歳をとってから自分の医療費・介護費に、ウェルちょを充てることを想定。

② 個人間で、エールの譲渡が可能

サポートの対象は、企業だけでなく個人も含んでいる。
例)孫が、おじいちゃんやおばあちゃんにエールをプレゼントする、など。

ウェルちょでは、エールの記録を行う部分について、ブロックチェーンを使用した台帳が構築されています。また、このポイントプログラムにより、次のことが実現されます。

(2) 「ウェルちょ」により実現できること

① エールを貯める

ウェルネスに関連する商品を買うとエールが溜まります。また、エールのポイント数は、商品ごとに変えることが可能で、同じ商品でも特売時に付与率を高めることも可能です。

② エールを使う

店舗側の負担も考慮し、店舗側と消費者側、どちらでもQRコードを読み取ることができます。

③ エールを贈る

エールは、個人から個人へ送ることができます。

最後に、「ウェルちょ」にブロックチェーンを選択した理由は、主に次の3点があげられます。

(3) ブロックチェーン活用の理由

  • ① 中立性・公平性が担保されたネットワークであること
  • ② 消費者の健康に関する購買・活動履歴が秘匿され、セキュリティーが担保されること
  • ③ 社会インフラとしての新規性、将来性

3. 食の信頼向上を目指すトレーサビリティ

食のバリューチェーン全体にわたる取引の透明化を実現する、ブロックチェーンを活用した業界プラットフォームとして、「IBM Food Trust」が有名です。2018年10月に商用化されたこのサービスには、欧米の食品業界における主要企業がすでに多く参加しており、先行事例として大きな注目を集めています。

食にまつわる安全と透明性の確保は、世界的に重要な課題となっています。統計によれば、毎年10人に1人が飲食に起因する健康被害を受けているのです。米国で起こった、199件に及ぶ大規模な大腸菌の感染症拡大においては、「ある1日の1サプライヤーによるたった1つのロットの商品」に問題があっただけで、業界が信頼と業績を回復するのに6~7年を費やすことになりました。

現状、ある商品で問題が発生しても、その発生源を特定するのは非常に困難です。なぜなら、食のサプライチェーンは関係者が多く、情報のやり取りはいまだに書類に頼ることが多いためです。情報が電子化されている場合でも、従来の電子データ交換を使って、1対1で接続されているケースが多く、サプライチェーンにおいて、自身の前後の取引状況しか把握できません。

したがって、有事には電話やメール、業務システム、関連書類などあらゆる情報源をしらみつぶしに調べることになり、早くても数日を要することとなります。そのため、原因が特定できるまでは、疑わしい商品はすべて回収せざるを得ません。これは販売機会の大きな損失となります。また、健康被害拡大の恐れもあります。

そこで期待されるのが、ブロックチェーンです。この技術を応用すれば、サプライチェーンにおける全ての関係者が、同じ情報を「改ざんされない形」で即座に共有することができます。

これにいち早く目をつけた世界最大の小売企業である米ウォルマートは、IBMとともに実証実験を繰り返し、「IBM Food Trust」というプラットフォームを開発しました。これは2018年に商用化され、全米の主要な小売企業がすでに参加を表明しています。

現在は、サプライチェーン全体の商品の来歴と検査結果等の証明書の管理、および集まったデータをもとに、商品の配送や倉庫保管内での鮮度管理の状況分析を行うモジュールが提供されています。

昨今、世界全体でフードロスが大きな問題となっています。全体の3分の1の生鮮果物と野菜は、品質が許容できないレベルに劣化したとの理由で廃棄されてしまっています。ブロックチェーン技術により、サプライチェーン全体が活性化されると、該当食品のバリューチェーン全体にわたる在庫量を把握することが可能となります。そして、過剰在庫の削減や流通過程で消費期限に迫った食品を特定し、より早く消費者の手に渡るような物流の計画変更などを通して、サプライチェーン全体のフードロス削減にも寄与することが可能となるのです。

4. 医療・健康データの共有

今日、患者は自分の医療・健康データにほとんどアクセスできず、自分自身のデータにもかかわらず、これをコントロールする手段がない状況です。これらのデータを患者と共有することは、より良い医療を提供する機会を生み出す可能性があることが長年認識されているものの、なかなか実現できていないのが現実です。

近年の急速なIT技術の発展により、スマートデバイスを使用して、患者の健康状態を自動的に管理したり、ウェアラブル端末から得られる健康な個人のデータを分析して、潜在的な病気のリスクを見つけるなど、その活用方法が広がっています。その一方で、情報漏洩の被害は日常的に発生しています。中でも、機密性の高い個人情報である医療・健康データの共有は、漏洩によるリスクが高いとされており、社会インフラとしての広がりは他の業界に比べて遅れています。そのため、医療業界においても、多くのプレーヤーや組織間で信頼された情報を共有できるようにする「ブロックチェーン技術」は、これらの実現を支援する有力な技術として注目されています。

FDA(米国食品医薬品局)とIBMによる実証実験では、大量の医療データを安全に交換することを可能にするフレームワークが構築されました。ここでは、ブロックチェーン技術を使って暗号通貨取引が追跡されるのと同じ方法が使われました。データが、どこでどのように転送され交換されるかを、電子的な台帳に記録します。台帳を通じ監査証跡を作成することで、医療従事者は情報漏洩者に説明責任を持たせ、データがどこに向かっているのかについて透明性を維持することで、電子的にデータ交換することの弱点を補完できるようになっています。

今後も、ブロックチェーン技術の活用により、信頼性の高いデータに対して素早く安全にアクセスすることができ、個々の患者の利便性の大幅な向上、偽造医薬品の低減、より効果的な研究開発の促進、新たなビジネスモデルの推進が期待されます。

5. 分散アイデンティティ管理

インターネットやスマートフォンの普及により、各種サービスのオンライン化が進み、個人情報のデジタルでの活用が増えています。企業は氏名、生年月日、性別、年齢、住所、経歴等の個人情報を管理・活用しながら、様々なオンラインサービスを展開し、新しい顧客体験を提供しています。

一方で、顧客の個人情報の管理には、次のような課題があげられます。

  • ① 個人情報の流出や不正利用の危険性
  • ② 個人情報利用に関する不透明な利用
  • ③ 個人情報保護に関する規制強化

企業はハッカーの攻撃による個人情報の漏洩や、不正利用を防ぐために莫大なコストをかける必要があります。また、個人情報保護法や一般データ保護規則などの規制強化の対応を実施しなければなりません。

これらの課題を解決する1つのアプローチとして、「Self-Sovereign Identity」という考え方があります。個人の情報は特定の企業や組織がその利用やアクセスなどを管理するのではなく、個人情報の所有者自身が管理することができるというコンセプトです。この個人情報管理を、ブロックチェーンで実現しようとする事例を紹介したいと思います。

例えば、セキュアキー・テクノロジーズ(スウェーデン)とIBMによって共同開発された、自己主権型の分散アイデンティティ管理のネットワークは、さまざまな銀行業務や行政サービスについて、迅速かつ安全に身元を確認する方法を提供します。ユーザーはモバイルアプリケーションを通じて、信頼できる認証情報を共有する組織や企業に対して、アクセス権限を制御することが可能となります。

例えば、ユーザーが自分の身元を銀行やクレジットカード会社に提示する場合、自分の身元へのアクセス権限を設定することで共有可能になります。銀行やクレジットカード会社は、公共事業者による認証済の情報を迅速に手に入ることが可能になるのです。

主なメリットは2つ。

① 個人情報のオーナーシップ

自身で第三者による個人情報の利用をコントロールできるようになり、意図しない個人情報の利用を防ぐことが可能になる。

② 個人情報のポータビリティ性の向上

サービス間での個人情報の再利用が可能になる。例えば、A銀行で個人認証が完了していれば、B銀行で再度、同様の個人認証の手続きを踏まずとも、A銀行の個人認証完了を持ってB銀行でも個人認証完了するといったことが可能となる。

さいごに

DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、「新しいIT技術を駆使し、従来とは根本的に異なる新しい商品やサービスを開発し、ビジネスモデルの転換を行い、持続的な競争優位を確立する」ことと考えます。日本企業においては、先進国の中でも最下位クラスの生産性の低さ、そして過去に例のないスピードで少子高齢化に突入していくという近い未来に対して、DXがその切り札の1つとして期待されています。

ブロックチェーンの発展をきっかけに、これまで効率化の難しかったサプライチェーンが効率化されたり、従来は考えられなかった会社同士のコラボレーションが生まれて、全く新しい商品やサービスが開発されたりすることも考えられます。ブロックチェーン技術を活用した日本初のプラットフォームが誕生し、世界に向けて巨大なエコシステムを展開していくことを期待したいと思います。