『ブランド~STORY設計とは~』関野吉記

by AIGRAM

あなたは、自分の会社がいつまで存続できると考えていますか?今この瞬間、人々の心を捉えている商品やサービスであっても、時代の変化に合わせてその優位性は瞬く間に失われていくという時代になりました。そういった苦境を乗り越えて、長くお客様に選ばれる企業になれるかどうかは、「付加価値」を提供できるかどうかにかかっています。その付加価値こそが「ブランド」です。そして、それを作り上げるものが「ブランディング」であり、ここに心血を注がない企業は必ず淘汰されていきます。しかし、カタチのないブランドというものを人に伝えるには、その基盤となる企業の「大義 (大切にする想いや社会への提供価値)」を伝える「ストーリー」が大切になります。企業のこだわりや独自性、希少性など、商品やサービスがまとっている付加価値という衣を、より多くのお客様に認識して「共感」してもらうには、「なるほど!」と思える物語づくりが欠かせません。これが「ブランドストーリー」です。

ポストコロナ時代は、企業として商品購入をいかに促すかということだけでなく、購入後の体験を見せることに工夫を凝らす必要があります。成功するブランドのストーリーには、商品購入後の体験までが描かれているものです。単に広告宣伝費をかけて終わりではなく、アフターストーリーの構築にも力を入れていく。そして、販売した後にも価値が上がっていくものを作っていくことが、勝ち残っていくための戦略となります。だからこそ、ブランドストーリーが必要なのです。

目次

「モノを売る、モノを買う」の原理原則

1. ブランドストーリーで生活者をその気にさせる

同じようなデザイン、素材、価格の服AとBを目の前に置かれて、「どちらかを選んでください」と言われたとします。あなたは、どうしますか?何となく気になったほうを選ぶことはできるでしょう。でも、選んだ理由を明確に答えてくださいと言われたら、困ってしまうと思います。なぜなら、両者の差別化が難しいからです。

では、Aの服は「この道30年のベテラン職人が丁寧に縫製しているので、縫い目がほつれることがなく、丈夫で長持ちする」と聞いたらどうでしょうか。それならほとんどの人がAを選ぶと思います。このように、人はモノを買う決断をするとき、そこには必ず「自分をその気にさせたストーリー」があります。逆に言えば、その気にさせるストーリーをつくることが、モノを売る鉄則だといえます。

日本は経済的に成熟し、情報技術が進んだおかげで日常生活はとても便利になっています。しかし、モノやサービスを提供する企業にとっては、機能や技術力だけで他社製品やサービスとの間に差をつけることが非常に難しい状況でもあります。量販店に並んだテレビを見ても、同じような価格帯のものであれば、メーカーごとの差はほとんどわかりません。よほど突出した技術を開発したりできなければ、他社の製品・サービスに大きく水をあけることは至難の業です。このような市場環境だからこそ、ブランディングをすることで他社と差別化し、共感できるイメージを根付かせることが期待できます。ただし、消費者の心を捉えるためには、魅力的なブランドストーリーがなければ意味がありません。では、魅力的なブランドストーリーとはどのようなものをいうのでしょうか?

2. ブランドストーリーのメリット

(1) 共感を得られる

ブランドストーリーは、関わる人々にポジティブなイメージを持ってもらうための手段です。モノを売り込みたい場合に最も重要なのは、知って欲しいことやアピールしたい特徴を伝えた結果、相手がどのようなイメージを持ったかです。たとえばコロナ禍の現在、ある飲食店に、「うちは、感染対策をしっかりしているので安全ですよ」と言われたらどうでしょう。感染対策は、どんな飲食店もしていることなので、そのひと言だけでは決め手にはなりません。ただ、「うちは、従業員に毎週PCR検査を受けさせたうえ、毎日の検温を欠かしません。また、店の定員を1/3にして、隣のお客様との間を4メートル空けてご案内しています」という事実に着目してストーリーを構築すれば、「従業員が、そこまで意識高く安全・安心に取り組んでいるなら、衛生面だけではなくて、サービスまでしっかりと行き届いているに違いない」などとイメージするはずです。このように、事実を魅力的にストーリー化することで、お客様に対して大切にしている想いや考え方を伝え、「共感してもらう」ことがブランドストーリーのポイントです。「共感」は、ポジティブな活動を引き出してくれます。生活者であれば、購買意欲が上がるでしょうし、取引先であれば付き合うことにメリットを感じて、それまで以上に良好な関係を構築することができます。

(2) 記憶に強く残る

魅力的なブランドストーリーには、相手の記憶に残りやすいという利点もあります。たとえば、童謡『ウサギとカメ」から得られる教訓は何ですかと聞かれたとき、多くの人が「油断大敵」とか「コツコツ行うことが大切」などと答えられるはずです。理由は、物語になっているからです。箇条書きで「油断すると痛い目にあう」とだけ書かれていても記憶に残りにくいですが、ゴールの手前でウサギが昼寝をしてしまい、その間にカメが追い抜いたという物語であれば、前後の話のつながりから記憶にも残りやすくなります。同じことがブランドストーリーにもいえます。魅力的なブランドストーリーによって、良いイメージを強く記憶に残すことができれば、相手の中で優先順位が高くなる効果も期待できます。

(3) 付加価値をつくれる

機能や技術による商品・サービスの差別化が難しい時代になっています。しかし、価格競争には限界があります。どこまで価格を下げられるかは、企業の体力次第です。そのため、中小企業には非常に厳しい時代だといえます。ひたすらコストを削って価格を抑える戦略は、働いている社員のモチベーションまでも下げてしまう危険をはらんでいます。この状況を変えるものこそが、ブランドです。ブランドは価格競争から脱却する付加価値を生み出し、商品やサービス、そして企業に強さを生み出していくものだといえます。たとえば、機械式時計を考えてみましょう。世界的に人気の高い海外ブランドのある時計は定価が200万円でも、購入した後すぐに中古品として販売すると、買取価格が290万円になります。一方、機能性にすぐれたある機械式時計は、定価が6万円ですが、購入後、同様に中古品として出すと、買取価格は3万円にしかなりません。この違いはブランド力によって生まれます。圧倒的な付加価値を持ったブランドが確立できていれば、中古品でも新品を上回る価格での販売が可能となります。低価格化というプライシング勝負の戦略は、長続きしません。だからこそ低価格に代わる武器として、商品やサービスへの付加価値としてブランドストーリーを描き、ブランドの確立を考えていく必要があるのです。

「ブランディング」とは

1. ブランディングの本質

ブランディングには二つの面があります。一つは、「インナーブランディング (社内浸透)」。もう一つが、「アウターブランディング (社外浸透)」です。インナーブランディングとは、会社の大義や企業理念などを社員それぞれに浸透させていく活動であり、社内での理解と実践を促すためのものです。その浸透施策には、研修や日々の指導など直接的なものだけでなく、人事評価制度や職場環境づくりなど間接的なもののほか、商品開発の方向性や社会貢献活動など、一見、社外向けであっても、実は社員にも影響を及ぼす施策があります。一方、アウターブランディングとは、社外の人間に対する取り組みです。お客様はもちろん、取引先やパートナー企業なども対象に含まれます。こちらは主に、広報活動や広告によってブランドの浸透を図っていくことになります。

2. インナーブランディング

この二つのブランディングが成り立たないと、ブランドの浸透効果は中途半端なものになってしまいます。特に見逃しがちなのがインナーブランディングです。たとえばこれが不十分で会社の方針を理解できていないスタッフが横柄な対応をしていたら、お客様は間違いなく嫌な印象を持ちます。もしかしたら、その一度の印象だけで、その会社や店を使わなくなるかもしれません。このように、ブランドをカタチづくっているものは、会社につながるすべてのモノやコトが対象です。いくら良いメッセージを発信していても、その想いが社員に浸透していなければ、すべてを壊してしまう可能性があるわけです。こういった、働く意味や意義を社員に伝える活動がインナーブランディングなのです。インナーブランディングの重要性をしっかり意識しましょう。

「ブランドストーリー」成功の鉄則

1. 会社の「大義」を見つめ直す

ブランドストーリーを構築するためには、その出発点となる大義を明らかにする必要があります。大義とは、会社が大切にしている主義や社会提供価値であり、成長を続けてきた企業発展の原動力となるものです。会社によって内容は異なりますが、成長している企業であれば、必ず共感を呼ぶ大義があるはずです。この大義をもっとも理解しているのは経営者です。「お客様への想い」「社員への想い」「なぜこれまで成長できたのか」「どのような会社であり続けたいか」「どのような成長、未来像を描くのか」経営者は、これらを自ら問いかけながら、漠然とした想いや考えを言語化していきましょう。また、大義は組織や社員の中にも根づいています。そ社員の心の奥底にある価値観や動機、思考の表出化のためには、社員同士で語り合うワークショップを実施することも効果的です。

2. ブランドの独自性を表すフレーズを使う

日本企業のホームページを訪れ、その理念を確認してみると、「信頼・信用」「安心・安全」「誠実」などの言葉が多く使われています。しかしながら、お客様や生活者がそれを読んだところで、深い共感は得られないでしょう。たとえば、銀行が「信用」を前面に打ち出していたりします。ただ、そもそも信用できない銀行に大事なお金を預けるわけがありません。銀行において、信用は大前提なのです。生活者から見れば当たり前のことを企業理念として掲げられても、何ら感銘は受けません。ブランディングにおいて本当に大切なのは、「信用」や「安全・安心」「誠実」という言葉を理念として掲げるに至った背景や想いと、それを語るブランドストーリーです。経営者としてさまざまなことを学び、経験したからこそ味わえる言葉の重みというものがあるでしょう。企業の魅力を伝えるためのブランドコンセプトは、自社の独自性をしっかりと表しながら、ターゲットとなる相手に伝わり、共感を覚えるようなフレーズを考えていくことが重要です。

3. 認知・理解より「共感」を大切にする

ブランドストーリーによって生み出される「共感」は、認知や理解とは異なります。たとえば、雨の中、傘があるのにずぶ濡れになりながら重い荷物を運んでいる人がいたとします。認知とは、あそこにずぶ濡れで荷物を運んでいる人がいるなと認識することです。理解とは、両手でないと運べない重い荷物だから傘がさせず、ずぶ濡れなのだとわかることです。ただ、認知や理解でとどまってしまっては、行動には結びつきません。その人を見て、同じ働く人間として頑張る気持ちがわかるとか、何か自分にできることはないかと共感が生じるからこそ、傘を差し出したり、荷物を運ぶのに手を貸したりするのです。ブランディングにおいては、共感によって会社が示す理念や考え方をわがことのように思えるから、誰かに伝えたいという衝動が生まれてくるのです。

4. 「人事評価」にまで落とし込む

ブランディングのために、会社の大義を社内に浸透させていくうえで、人事評価制度が果たす役割は非常に大きいものがあります。社員が会社の掲げる大義に共感し、ビジョンをともにして、正しい方向に動いてくれれば、会社が強くなるからです。そもそも、会社が登ろうとしている「山」を認識できていない社員は、どんな組織でも多いものです。もしもあなたの会社が、富士山に登ろうと考えているならば、社員全員にそれを認識させ、そのための準備と心がけをしてもらわなければなりません。そういった組織になるためには、人事評価制度やキャリアパス制度に会社の大義を盛り込むことが大切になります。組織への貢献度や理念にそった行動を、どれだけできたかという観点を重視した「理念浸透型・人事評価制度」を導入していくといいでしょう。理念浸透型・人事評価制度では、社員一人ひとりの日々の業務を記録して、組織に対する貢献の度合いを評価します。成果だけでなく、指導力や新規企画力、事業立案力といった貢献度と、行動指針を体現できているか、ブランドを大切にする想いのようなものにもウエイトを置いた評価にするのです。そもそも人事評価制度は、単に「評価する」ためのものではなく、社員の成長を促し、会社の力を伸ばしていくためのもの、ということを理解しなくてはなりません。部下の育成を上司がサポートし、彼らのキャリア成長を応援することも企業の務めです。

5. 「社内」と「社外」で発信内容の完全一致を追求する

今、調べたいと思ったことは、たいていインターネットなどで調べることができます。会社にとって都合の悪いことを隠そうとしても、隠し切れない時代になっているのです。そのため、アウターブランディングを考えるうえで、インナーブランディングと連動させることは、これまで以上に重要な要素になっています。生活者は、企業が発信するキャッチコピーや商品紹介などのメッセージが、企業にとって都合がいいようにつくられていることを知っています。そのため、少しでも疑念があれば、すぐ調べるものだと考えるべきです。そこにズレを感じたら、消費者はあっという間に離れていきます。インナーブランディングとアウターブランディングに一貫性を持たせるには、会社の大切にする想いが、社内に浸透していなければなりません。ブランディングは、社内への浸透からはじまり、社外への発信へとつながっていくものです。これを心にとめておきましょう。

6. 「カルチャーブック」で、会社の想いを浸透させる

共通の価値観を視覚的に伝える会社の大切にする想いや大義を社内外へ浸透させるためのコミュニケーション・ツールに「カルチャーブック」があります。これは、会社で働く一人ひとりが心の中で感じている共通の価値観を視覚的にわかるようにしたものであり、会社全体として思い描く未来や提供したい価値、社会に対する使命などを表現したものです。文字やイラスト、企業独自のキャラクターなどを使って、印象深く、楽しいつくりになっています。大義が企業によって異なるように、それを表現するカルチャーブックのスタイルもさまざまです。社員がカルチャーブックを読めば、自社の大義を理解でき、仕事への誇りやモチベーションを高めるきっかけになります。カルチャーブックを活用して、インナーブランディングを推し進め、コンセプトとストーリーを通じた社員への、想いの浸透、自社の魅力を売り込むチカラの育成を行い、同時にアウターブランディングを展開していきましょう。

さいごに

世の中、新しいことをやらない理由など、星の数ほどあります。多くの企業が本気でブランディングに取り組んでいないのが実態です。だからこそ、やる価値があります。ブランディングとは目に見えない付加価値を提供することで、他社と差別化し、お客様に選んでもらうための方法です。とはいえ、理念浸透や組織改革、人事評価制度の整備などの社内での取り組みといったブランディングの根幹となる部分は、どうしても、後回しにされがちな状況があります。ただし、ポストコロナ時代の今、ブランディングの重要性はますます高くなっています。そして、コロナ禍で多くの企業が、社内への投資に二の足を踏んでいる今だからこそ、社内のブランディングに取り組み、そこに時間とお金を投資できる企業には、「勝つチャンス」があると思います。今すぐにでも、できることからはじめていきましょう。