『ブロックチェーン×エネルギービジネス』江田健二
目次
- 仮想通貨とブロックチェーン
- 仮想通貨取引におけるブロックチェーンのメリット
- ビジネスへの影響
- 日本と世界のエネルギー産業について
- ブロックチェーンとエネルギー
- エネルギービジネスでの可能性
- 離れた場所にいる個人同士が安心して直接取引ができる。
- 契約締結がスムーズになり、契約情報に基づいた業務の自動化も可能。
- 規制・ルール
- 自己矛盾
- ファーストステップ(2020~2025年)
- セカンドステップ(2025~2030年)
- サードステップ(2030年以降)
- 企業による取り組み
- Sun Exchange(南アフリカ共和国)
- ZF Fridrichshafen(ドイツ)
- Bankymoon(南アフリカ共和国)
- Freeelio(ドイツ)
- Power Ledger(オーストラリア)
- Sonnen(ドイツ)
- 感想
仮想通貨とブロックチェーン
ビジネスの世界で今、注目を集めている「ブロックチェーン」。これを活用しているサービスとして最も有名なのは、世界最初の仮想通貨である「ビットコイン(Bitcoin/BTC)」です。仮想通貨は、ビットコイン以外にもすでに1,000を超える種類があり、この仮想通貨を、世界中で数百万人以上の人々が自由に売買できるのは、「ブロックチェーン」の仕組みによるものと言えます。
仮想通貨取引におけるブロックチェーンの利点とは「離れた相手との取引を誰にも邪魔されず2人だけで素早くできる」ことです。例えば、海外への送金では複数の金融機関の仲介が必要ないため、今までよりも「早く、安く、確実に」送金することができるのです。
仮想通貨取引におけるブロックチェーンのメリット
- 書類へのサインが必要ない。
- 送金手数料が小額。
- 短時間のうちに相手に届く。
仮想通貨取引においては、ブロックチェーンは「国の信用力」と「金融機関の仲介業務」の役割を代行しています。ブロックチェーンでの取引情報の改ざんは事実上不可能なため、自分が持っている仮想通貨が本物であること、相手に仮想通貨を送金したことが間違いないかということを保証することができます。
また、ブロックチェーン取引では、すべての取引履歴をブロックチェーンに参加している全員で共有します。特定の誰かに信用を担保してもらうのではなく、参加者全員で確認し合うことで、行われた取引の信頼性を担保することができます。仲介者が存在しないため、手数料や取引にかかる時間は誰にもコントロールされません。つまり、本当の意味での個人間の直接取引実現すると言えるのです。
ビジネスへの影響
ブロックチェーンが与えるビジネスへの影響は大きく3つ考えられます。
小さな価値の直接取引を実現
手数料が高くコストが合わないという理由から実現できなかった「少額の取引」でも利益を生み出すことが可能になります。これにより、ビジネスの対象が大幅に広くなることが考えられます。また、信用力を強みにしていた仲介ビジネスを崩壊へと導く可能性も秘めています。
業務の効率化・自動化
ブロックチェーンは、ビジネスにおける契約締結のフローを単純且つ速やかにします。ブロックチェーンに書き込まれた情報は改ざん困難なため、契約書の印刷や押印、互いに補完し合う必要もありません。また、この機能を活用することで、契約内容に則って自動的に取引を実行することができます。例えば、レンタカーの手続きに書類が不要となり、将来的には、個人間での自動車のシェアリングも実現可能となります。
加えて、製品のアフターサポートを自動化(スマートコントラクト)することができます。例えば、会社のコピー機が故障したら、コピー機自身が自動的に利用者にメールで通知。同時に修理業者には、修理依頼の連絡が自動送信されます。部品の取り替え等の必要があれば、コピー機が部品の注文や支払いまでを自動で行うことができるのです。
自ら証明書を発行可能
ブロックチェーンの「第三者による情報の改ざんができない」という特徴は、記載されている情報が正しいと全員が理解できるため、新たな価値を生み出します。例えば、書き込まれた情報を住民票等の公的な証明書と同様に、情報価値を持った証明書となります。したがって、複数の人や組織で互いに情報を共有、管理するときに役立ちます。実際に、ソニー・グローバルエデュケーションでは、学生の成績証明書をブロックチェーンで管理し、複数の教育機関で共有できるサービスを始めています。このサービスにより、大学入試や就職活動等の際に、毎回成績証明書等の書類を印刷して上で提出する手間が省くことができます。
ブロックチェーンの利用メリットが大きいのは、「多くの関係者で情報を共有して更新していく場合」です。理由は、1つの情報を複数の人や組織で共有・管理する際には、時間やコストがかかるためです。患者の医療情報を複数の医療機関で共有する場合や、保険会社が自動車の事故情報を、他の保険会社や自動車メーカー、修理工場と共有する場合などが該当します。多数の人が介在し、情報のやりとりややり取りに多くの時間とコストがかかっていることが明らかな場合は、ブロックチェーンでの仕組み構築に非常に向いていると言えるのです。
日本と世界のエネルギー産業について
日本のエネルギー業界は、大きな変化の渦中にあります。日本政府は2030年に再生可能エネルギーの比率を22%以上にする目標を掲げており(2014年時点では12%程度)、分散型発電(太陽光や風力)が進みつつあります。分散型発電では、従来の発電方法である火力発電と比べると、発電量は数十分の1程度。しかし、設備が小さい分、建設期間が短く、住宅の屋根や空き地、池谷海岸など発電に適した場所も豊富にあります。特に、太陽光発電が増加傾向にある理由として、「固定価格買取制度」の開始が挙げられます。
2009年に始まった固定価格買取制度により、太陽光発電を設置した家庭は、設置から10年間、余った電気を高い単価で電力会社に売ることができました。しかし、最初に導入した家庭では2019年から期限が切れ始めるため、高い単価で電力を買い取ってもらえない家庭が急増することになります。電気が大量に余る過程であれば、「近隣の家や地域の家庭に電気を販売したい」というニーズが自然と生まれます。
また、電気を送る送電領域についても大きな変化があります。送電には電線の保守、点検、整備が欠かせません。しかし、人口減少が進み、電気を利用する人が減ってしまった地域では、電線の維持費を電線の利用料金で補えなくなってきています。この傾向が増加すると、最終的には送電線網全体を維持することが困難となる可能性があります。また、分散型発電が増加すると、電線の利用率低下に影響します。自ら発電して自ら利用する家庭や工場が増えるほど、遠くの発電所から電気を送る電線の利用率は減少するのです。これがそのまま電線収入の減少につながり、まさに負の連鎖が起こることとなります。
一方、欧米では日本とは事情が異なり、太陽光や風力発電のコストが従来の火力発電よりも安価になってきています。そのため、より利益が上がるという「経済的メリット」の観点から再生可能エネルギーの普及が拡大しつつあります。政府としても、エネルギーコストを低減させることで、製造業や農業を含めた産業の国際競争力を上げていく狙いがあります。例えば、2030年までにドイツは50%以上、フランスは40%の再生可能エネルギー導入を目指すと公言しています。
エネルギー事情は、地域によって異なり、日本には日本固有の事情があるため、欧米をそっくりそのまま模倣すれば容易というわけではありません。しかし、共通して言えるのは、どの地域でも急激な変化の渦中にいるということです。日本は分散型発電の増加や人口減少などの影響で変化を迫られているものの、こうした変化をむしろチャンスととらえ、新しい社会のモデル構築に結びつけることができる可能性を秘めていると考えられます。
ブロックチェーンとエネルギー
現在、ブロックチェーンの活用を最も進めている業界の1つは「金融業界」です。銀行や証券会社の競争力は、お金の数値情報をいかに効率的に管理して共有できるか、です。加えて、金融業界は規制が多く参入障壁が高い業界です。
同じように電力会社も、発電情報や送電情報、利用情報などの情報を数値管理していて、私たちもまた、毎月届く電気の請求書の数値を確認し支払いを行います。そのため、エネルギー業界も金融業界と同様に、情報の効率化を図れるブロックチェーンとの親和性が高いと考えられます。また、近年電力の自由化が徐々に進んでいるとは言え、他業界に比べると規制が多く、外部からの参入が少ない業界であり、ブロックチェーンを活用してのコスト削減の余地や新しいサービスの開発が可能と考えられます。
では、ブロックチェーンの仕組みをエネルギー分野でどう活かすことができるのでしょうか?
1つは、個人間での電気の売買や外出先で電気を購入することが可能になります。販売者の購入者も、どれだけ電気の売買が行われたかをブロックチェーンを使った仕組みで正確に確認することができます。将来的には、街を走るEV同士で電気の融通をすることも可能になります。また、太陽光発電で電気が余った家庭と、電気を購入したい家庭とが電気を売買し合うことが可能になります。
また、多くの情報を扱う電力会社の業務が効率化する。例えば、家庭や企業が電気の契約を切り替える場合、スマートフォンからワンクリックで切り替えが可能になります。また、スマートコントラクトにより、電線や電気を計測するスマートメーターが故障した場合に、故障情報が関係者に自動通知されます。これにより業務が効率化することで、コストを大幅に削減でき、私たちの電気代が下がると考えられます。
エネルギービジネスでの可能性
離れた場所にいる個人同士が安心して直接取引ができる。
- 外出先での電気の購入
- EV間での電気の融通
- 電気の個人取引
契約締結がスムーズになり、契約情報に基づいた業務の自動化も可能。
- 電力会社の業務効率化
- 契約切り替えの効率化
- 故障の早期発見
ただし、これほどメリットの多いブロックチェーンにおいても、ビジネス領域で活用するとなると大きな障壁があります。
規制・ルール
エネルギー産業は、非常に重要な社会インフラであるため、多くの細かな規制やルールが存在します。例えば、電気を販売するには、国に申請を行い、氷電気事業者の免許を取得する必要があります。また、現在の日本では、個人間での電気の売買は認められていません。つまり、ブロックチェーンを活用するかどうか以前に、電気の個人間売買を実現するには、法律やルールを変更する必要があります。
自己矛盾
ブロックチェーンの仕組みを維持していくには非常に大量の電力を必要とします。最も電力を使うのは「マイニング」と言う業務です。マイニングは、ブロックチェーンで行われた取引内容をコンピューターで確認する作業です。マイニングは世界中で個人や企業が行っており、一定のルールに従って報酬が支払われます。マイニングには、すでに世界中で数十万台以上のコンピューターが使われており、これらに使用された電力は、159カ国が1年間に使用する電力量を上回ったとの報告もあります。エネルギーの最適化のためにブロックチェーンを活用することは、矛盾しているとも考えられるのです。
まだまだ課題のあるブロックチェーンですが、エネルギー領域に浸透していくプロセスは、インターネットがビジネス世界に浸透していったプロセスと似るのではないかと考えられます。インターネットは1995年のWindows95の発売を機に、「社内での活用→社外との連携→新しいビジネスモデル誕生」という流れで拡大していきました。ブロックチェーンにおいては、2020~2025年がファーストステップ、2025~2030年はセカンドステップ、2030年以降がサードステップと想定されます。
ファーストステップ(2020~2025年)
- ビットコインなど仮想通貨の活用
- スマートメーターなどの機器の効率化
- ブロックチェーンの活用に関する基礎研究
セカンドステップ(2025~2030年)
- EVとの連携
- 蓄電池、家電製品などIoT機器との連携
- エネルギー企業同士の直接取引
サードステップ(2030年以降)
- 再生可能エネルギー普及に向けた取り組み
- 電力の個人間取引
- 消費者とエネルギー市場の直接取引
企業による取り組み
最後に、エネルギービジネスにおけるブロックチェーンについて先進的な取り組みをしている企業をいくつか紹介したいと思います。
Sun Exchange(南アフリカ共和国)
ブロックチェーンを活用し、太陽光発電の出資者と発電した電気の利用者をつなぐ事業を展開しています。太陽光パネルの出資者は、ビットコインでの出資や投資回収が可能です。海外送金にかかるコストを抑えているため、他国にいながらも南アフリカ共和国で太陽光パネルを所有し、収入を得ることができる仕組みになっています。電気の利用者である地域住民は、電気を安価に安定的に使用することができます。
ZF Fridrichshafen(ドイツ)
ブロックチェーンを活用した自動車用決済プラットフォームを構築しています。自動での料金支払いや会員登録、ログインを必要としない充電スタンドの利用、カーシェアリングなどの実現を目指しています。
Bankymoon(南アフリカ共和国)
資金難に悩むアフリカの公立学校にブロックチェーン対応のスマートメーターを設置しています。寄付者は、寄付したい学校を選び、ビットコインで直接回答する学校のスマートメーターのビットコインアドレスに寄付することができます。寄付された金額に応じて自動的に格好に一定量の電気が供給される仕組みです。
Freeelio(ドイツ)
太陽光発電モニターに搭載するAIアプリを開発しています。自宅や建物内の電力消費パターンを学習し、未使用の太陽光発電、蓄電池の未使用容量、暖房や冷房の調整できる範囲が「いつ、どれくらい」あるかを把握することができます。
Power Ledger(オーストラリア)
ブロックチェーンを活用した再生可能エネルギーの取引プラットフォームです。売り手と買い手が仲介役を介さずに、太陽光パネルで発電した電気を直接取引することを可能にします。
Sonnen(ドイツ)
太陽光発電設備用の蓄電池メーカーです。各家庭に設置された蓄電池は、インターネットを介してネットワーク化され、余剰電力をリーズナブルな価格で融通し合うことができます。
感想
いかがでしたか?
解決策が見当たらない問題が山積みのエネルギー業界ではありますが、その中でブロックチェーンは社会をより良い方向に導く可能性があります。ブロックチェーンが「エネルギービジネス」だけでなく、社会全体を変えていくことを期待しつつ、私自身も自分にできることを模索していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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