『ブロックチェーンでできる30のこと』瀧澤龍哉

by AIGRAM

本記事では、「ブロックチェーン」とはどんな仕組みで、この技術がどのようなビジネスに応用されているのか、について紹介したいと思います。

「ブロックチェーン」という技術が、第4次産業革命と言われ始めてから5年の月日が経過しました。しかし、ブロックチェーンが生活に使われていると感じた人は、ほとんどいないと思います。そして、大多数の人にとってブロックチェーンは、単なる「仮想通貨で使われている技術」程度の認識にとどまっているでしょう。実際には、ブロックチェーンはすでに様々なことに応用されています。間違いなく、今後、社会に浸透していく技術だと確信できると言っても過言ではありません。

目次

ブロックチェーンとは何なのか

ブロックチェーンとは、「取引の信頼性を技術そのものに委ねることができる技術」のことを指します。これまでは、取引のために第三者による「お墨付き」が必要でした。信頼できる第三者機関が間に入っていないと、信頼性を担保できないためです。

例として、銀行のお話をします。一般的に、資金を送金するときには、銀行の窓口やATMで行います。その取引は銀行によって証明され、銀行が資金を確実に相手に届けてくれます。これは「信頼性のある機関」である銀行を、仲介機関として使うことで「信頼」を手数料で買っている、とも言えます。

仲介機関として銀行を利用するデメリットは、手数料がかかることです。特に、送金先が海外ともなると、一度の送金に数千円もの手数料がかかってしまいます。もちろん、送金は重要な取引活動です。ある程度、手数料が高くても、信頼できる機関を利用する人は多く存在します。

しかし、ブロックチェーンを使った送金は、銀行を通さなくても行うことができます。なぜなら、「ブロックチェーン」という技術そのものが高い信頼性を誇るためです。つまり、ブロックチェーンを使えば、送金のために高額な手数料を払う必要がなくなるのです。

ブロックチェーンの特徴

改ざんできないデータが半永久的に残る

ブロックチェーンでは、データを「ブロック」という単位で扱います。一定時間に発生した取引履歴をブロックに詰めて、ブロック同士を数学的に整合性が確認できる形で、つなぎ合わせていくのです。

そのため、ブロックの中身を改ざんすると、その整合性が取れなくなってしまいます。不正をはたらき、取引履歴をごまかすためには、対象となるブロックの後ろにある全てのブロックを書き換える必要が出てきます。これには、とてつもないコストが必要です。

また、ブロックチェーンは同じデータを複数のノード(システムを構成するコンピューター)で管理するようになっています。仮に、複数あるうちの1つのノードが取引履歴を改ざんしたとしても、残りのノードの取引履歴と一致しなければ、改ざんは成立しません。

ブロックチェーンは、多数決でデータを保っています。例えば、ビットコイン(Bitcoin/BTC)のノード数は10,000以上ですので、ビットコインの取引履歴を改ざんしたい場合、過半数である5,000以上のノードを用意する必要があります。これを実現するのは、実質不可能です。加えて、これらが消滅・消失するためには、ノードが全て消滅する必要があります。つまり、ブロックチェーンのデータは半永久的に存在することになります。

中央管理者が存在せず、透明性がある

ブロックチェーンには中央管理者がいません。その代わりに、多くのノードによって管理されているため、一般的にブロックチェーンは透明性があるとされています。

全員でブロックチェーンを管理しているため、取引の検証も全員で行います。ブロックチェーンの取引履歴は世界中に公開されており、不正は行えません。

トラストレス

ブロックチェーンにおいて、最も重要なキーワードは「相手を信頼する必要は無い」ということです。上述の通り、ブロックチェーンは「改ざん」ができません。そのため、ブロックチェーン上に刻まれている取引条件に従って相手と取引をすれば、結果的に相手を信頼する必要がなくなります。

今までは、信頼性を担保するために、第三者の存在が必要でした。しかし、ブロックチェーンを使えば、相手が信頼できるかわからなくとも、結果的に信頼できる取引ができます。

ブロックチェーンの種類

ブロックチェーンは、「パブリック・ブロックチェーン」と「プライベート・ブロックチェーン」に分けられます。

パブリック・ブロックチェーン

パブリック・ブロックチェーンは、誰でも参加することができます。企業や個人が提供したコンピューターを使って、ノードを運用します。そして、そのコストは利用者が払います。国境は関係ないため、利用料の支払いには仮想通貨を用いることになります。一方で、仮想通貨の調達にはリスクがあるといったデメリットがあります。

プライベート・ブロックチェーン

プライベート・ブロックチェーンは、企業内や企業間で利用するブロックチェーンです。「エンタープライズチェーン」とも呼ばれます。管理者が存在していて、彼らが決めた人しか参加することができません。早い処理速度を確保できる、仮想通貨を使わなくていいなどのメリットがあります。

どちらのブロックチェーンも、それぞれ長所と短所を持ち合わせており、実現したいシステムに応じて、使い分けていくのがベストの方法と考えられます。

ブロックチェーンの応用事例8選

デジタルデータの中古販売

今や、デジタルデータのコンテンツを購入することは珍しくありません。ゲームや電子書籍を購入したことがある人は多いのではないでしょうか?デジタルコンテンツの購入は、現物を買うよりも非常に手軽で、すぐに手に入れることができます。

しかし、コンテンツを使い終えた後は「削除」するしかありません。現物であれば、中古ショップに売るといった選択肢がありますが、デジタルだとそれができません。消費者の立場で見てみると、デジタルコンテンツも中古で売れれば、良いに越したことはありません。しかしながら、デジタルデータはコピーが簡単なため、中古で売れるほどに著作権保護をゆるくしてしまうと、簡単にコピーされてしまいます。これではメーカーの権利を守ることができません。

そこで、ブロックチェーンの活用が期待されます。ブロックチェーンを使えば、デジタルコンテンツであっても、中古で売れる仕組みを実現することが可能になります。ゲームの利用者や所有権をブロックチェーン上に書き込み、それらの権利を売買できるようにすることで、コンテンツの中古売買を成立させることができます。

スペインに拠点を置くRobot Cacheでは、売買されるゲームをブロックチェーンで管理することによって、不正な改ざんや複製を阻止しています。中古ゲームの売買が成立した際には、その売り上げの一部がメーカーに還元され、販売者には新品ゲーム価格の25%が、現金または独自の仮想通貨で返金される仕組みになっています。現物の中古販売では、メーカーへの利益還元は一切ありませんでしたが、ブロックチェーンを使うことで、メーカー側でも新たな収益源が確保できるようになります。

学位証明

高学歴であることは、生きていく上で多くのメリットを持ちます。調査によると、高学歴の人は良い企業に就職しやすく、結婚できる可能性も高くなります。そのため、倫理的な問題はさておき、自分の学歴を詐称して高学歴を装うことは合理的な側面があると言えます。

例えば、マレーシアでは、偽造された学位証明書がインターネットの闇市場で販売されるなど、学歴詐称問題が深刻となっています。そのため、マレーシアの大学には、卒業生の就職先の会社から、その人が実際に卒業しているのか確認するための、問い合わせが頻繁にあります。そのやりとりには、メールや電話が使われており、検証作業も含めると負荷が非常に大きく、お互いにとって非効率になっていました。

そこで、マレーシアの教育省が中心となり、学位を証明するシステムの開発が行われました。学生に対してブロックチェーンのアドレスが発行され、大学はそのアドレスに卒業証書や関連するすべての情報を追加していきます。大学が発行した学位証明書にはQRコードがついていて、就職先の会社がスキャンすると、情報を照会できるようになります。このように、ブロックチェーンを使うことで、学歴詐称を阻止することができるのです。

選挙投票

選挙や投票に信頼性が必要なのは言うまでもありませんが、海外では不正選挙というワードが飛び交うことも少なくありません。選挙では監視役を置くのが一般的です。しかし、監視役も人間ですので、不正を完全にゼロにすることは非常に困難です。

そこで、スマートフォンの投票アプリや、選挙管理サービスなどを提供する企業が、ブロックチェーンの導入を始めました。スマートフォンと生体認証技術を使い、インターネットから選挙に簡単かつ安全にアクセスできます。

ブロックチェーンが使われるのは投票の部分で、票は暗号化されてブロックチェーンに記録されます。このサービスにより、直接投票に行けない海外在住の住民や、障害者がスマートフォンから投票できるようになります。ブロックチェーンを投票に取り入れることによって、従来であれば民意として反映されなかった層が、政治にアクセスすることが可能になるのです。

電機自動車の付加価値強化

電気自動車は、ガソリン車と比べてブロックチェーンとの相性が良い分野です。電気自動車の普及が拡大する背景には、「地球温暖化の防止」があります。二酸化炭素や温室効果ガスの排出を減らすために、電気自動車が大きく貢献するのです。

中国企業のBYDは、ブロックチェーンを採用した「走行データ管理プラットフォーム」を開発し、温室効果ガスの排出枠を取引することを可能にしました。電気自動車で二酸化炭素の排出量を減らすことができた場合、その実績を「カーボンクレジット」として売却できるようになっています。

利用者からカーボンクレジットを購入した企業は、二酸化炭素を削減した実績を証明でき、くわえて、走行データを得ることができます。電気自動車の所有者は、自分の走行データとカーボンクレジットを、プラットフォームに参加している企業に提供することで、報酬を得て、それを商品やサービスの支払いに利用することができます。

アート作品の流通・評価システム

アート業界では、贋作(がんさく)問題が深刻になっています。2014年には、現在流通している美術作品の50%は贋作であるという調査結果が出ています。この問題は、大きく2つに分けられます。美術作品が本物であるかどうかという「出所の問題」と、どのような人々の手に渡ってきたかという「来歴の問題」です。

「出所の問題」に関しては、証明書を使って信頼性を担保する方法がありますが、証明書は改ざんが容易なうえ、統一された規格のない紙の証明書が用いられています。「来歴の問題」では、専門家の鑑定が必要となるため、時間と鑑定コストがかかります。

そこで、これらの問題を解決するためにブロックチェーンの活用が検討されています。このシステムでは、アーティストがブロックチェーンのプラットフォームを使い、作品の証明書を発行します。作品のオーナーが変わると、その都度、ブロックチェーンに作品の所有権情報が書き込まれます。新しいオーナーはアート作品に添付されたカードや、シール上にあるQRコードを読み取ることによって、作品の「出所」や「来歴」を確認することができます。

アート業界におけるブロックチェーンの活用事例は「【web3業界解説】アート」も参考にしてみて下さい。

シェアリングエコノミー

近年、「シェアリングエコノミー」は一般化が急速に進んでいます。代表的なのは、自分の車を貸すサービスや、使わない家を宿泊用として貸す民泊があります。シェアリングエコノミーサービスには、サービスの提供会社という仲介者が存在します。例えば、AirbnbやUberなどです。彼らは手数料を徴収することで、ビジネスを成り立たせています。

ブロックチェーンを使ったシェアリングエコノミー関連サービスでは、スマートフォンを使うことで、民泊施設の鍵の開け閉めができるようになります。現状、民泊を利用する場合、家の鍵の受け渡しは、直接オーナーとの対面や、管理代行会社を通して行われます。しかし、言語の問題などで鍵の受け渡しがスムーズにできないリスクがあります。

これを電子上にすることで、鍵の開錠をアプリで実現できるようにしています。開錠の権利は、ブロックチェーンに記録されており、民泊利用者は権利が有効な時だけ、鍵を開けることができるようになります。

音楽ストリーミング再生サービス

サブスクリプション型のストリーミングサービスでは、レコード会社に入ったお金の3~5%程度が、作詞・作曲者・アーティストへの配分となります。最近では、音楽の主役であるアーティストに微々たる割合しか支払われないことが世界中で問題となっています。

ブロックチェーンを用いたストリーミングサービスでは、音楽を無料で利用者に提供します。また、広告表示は一切ついていません。収益化方法は、主にファンからのチップです。このサービスでは、ファンがアーティストに対して、プラットフォームの独自仮想通貨を支払う方法があります。

アーティストが受け取る仮想通貨は、ブロックチェーンにより仲介者を省くことができるため、100%アーティストのものになります。また、別のアーティストの曲をサンプリングしてサービスを利用した場合、自動的に別のアーティストに対して、利用料を払う仕組みも実装されています。

音楽業界におけるブロックチェーンの活用事例は「【web3業界解説】音楽」も参考にしてみて下さい。

オンラインストレージ

近年、利便性の高さから「オンラインストレージ」にデータを保存する機会が増えています。例えば、DropboxやiCloud、Google Driveなどです。オンラインストレージでは、大量のデータ保管に、物理的な器(HDDやSSD)が必要になります。保管データが増えるほど、業者側の管理コストや情報漏洩のリスクが増大します。

これらの問題を解決するために、ブロックチェーンを使った、分散型オンラインストレージサービスが開発されています。このサービスでは、自分のパソコンのハードディスクの空き容量を、必要としている誰かに貸すことができます。データを保管したい利用者は、提供されたストレージにデータを保管することになります。

一定の決まった人にデータが集中保管されると、データが消失するリスクが懸念されるため、ファイルを分散して保管する仕組みとなっています。また、データはネットワーク上に複製されて保管されます。利用者は、分散されたデータをかき集めることで、元のデータを取り出すことができます。ストレージを提供した人には仮想通貨が付与され、これを支払うことで分散型オンラインストレージにデータを預けたり、引き出すことができるようになります。

これらの仕組みは、データの改ざんがあるとまったく使い物にならないシステムになります。そのため、ブロックチェーンによって、保管データの情報を厳密に管理し、ストレージ提供者への仮想通貨付与を、不正なく行うことにより、システム全体の高い信頼性を確保することが実現できるのです。

クラウドストレージ業界におけるブロックチェーンの活用事例は「【web3業界解説】クラウドソーシング」も参考にしてみて下さい。

最後に

様々な事例から、ブロックチェーンの使いどころを理解できたでしょうか?ブロックチェーンが応用されるのは、主に「データの信頼性が求められる部分」になります。なぜなら、従来であれば高くかかっていた信用のためのコストを、ブロックチェーンによって大きく削ることができるからです。

単純な構造ではありますが、ブロックチェーンが応用できる範囲は、凄まじく広いことをご理解いただけたかと思います。ブロックチェーンの新しい応用方法を実現すれば、今後、日常生活がより便利になっていくことが期待されます。「このようなこと例があったらいいな」、「こんなことにも応用できるのではないか」などのアイディアがあれば、ぜひコメントしてくださいね。