ブロックチェーンは医療・ヘルスケア産業をどう変えるのか。スポーツジムでの応用可能性を徹底検証!
2022年現在、医療・ヘルスケア(Health care)産業は大きく拡大を続けています。この拡大は、人々の平均寿命の伸びや健康への関心を反映しており、今後も市場は拡大を続けていくでしょう。そのため、このビックウェーブに乗ろうと、ヘルスケア産業にブロックチェーン技術を活用した仮想通貨(暗号資産)なども次々と登場しています。
しかし、「ブロックチェーン技術がヘルスケア産業にどうやって応用されるの?」と疑問を持つ人も少なくないでしょう。そこで今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、ブロックチェーンをヘルスケア産業に応用したら、どのような課題が解決できるのかについて徹底検証しました。今回の検証に用いたのは、ヘルスケア産業の中でも特に大きく市場規模の拡大を見せているスポーツジム業界です。現在は新型コロナウイルスの影響で若干落ち込み気味のスポーツジム業界ですが、アフターコロナの時代ではさらに市場規模の拡大が期待されています。
目次
1.ブロックチェーン活用で出来るようになること
ブロックチェーンは、コンピュータやインターネットの発明にも匹敵するほど、次世代を形成する画期的な技術であるといわれます。コンピュータは短期間に大量の計算をこなす機械であり、インターネットはほぼ無料で大量の情報を送受信できる技術です。この組み合わせによって、大量の文章・画像・音楽・映像を加工・複製し、個人で世界中に広めることができるようにもなりました。
しかし、データが自由に加工・複製されては、かえって信頼性を失ってしまう局面があります。いくらでもコピーし、何度でも書き換えられるデジタルの特徴が、社会的には足かせとなる場合もありうるのです。たとえば、お金に関するデジタルデータです。口座残高の数字は銀行などの金融機関が管理していますし、電子マネーの残高も、そのシステムを提供している企業がコントロールしています。「銀行だから」「大企業だから」と、私たちは無邪気に信頼していますが、不正に書き換えられることは絶対にないと言い切れる保証はどこにもありません。
ブロックチェーンは、特定の管理者が存在しなくても自律的に機能し、データの不正な書き換えが原理的に不可能とされている、特殊なシステムです。特定の企業を信頼する必要がなく、ブロックチェーンという暗号技術の仕組み自体が信頼性を担保するのです。つまり、人と人の関係性の間を、ブロックチェーンで仲介することができれば、たとえ相手が信頼できるかどうか不明でも、安心して取引できます。たとえ人間がウソをついても、ブロックチェーンはウソをつきませんし、誰かが都合よくウソを書き込むこともできないからです。この「トラストレス(信頼できる第三者を必要としない状態)」という特徴が、様々な分野で応用されています。
2.スポーツジムへのブロックチェーン応用可能性
そして、スポーツジムなどのヘルスケア分野も、ブロックチェーンの応用による進化が期待されている領域のひとつです。
その応用可能性は、おもに2つあります。「遊休資産の活用」と「ヘルスケアデータの活用」です。
2.1遊休資産の活用(会員権のシェアリングエコノミー)
スポーツジムの多くは、月額会員制で運営されている、いわゆる「サブスクリプション」のビジネスモデルに基づいています。定められた条件の範囲内であれば、ジムの施設を使い放題であることが一般的ですが、まったく利用しない月があっても所定の会費を支払わなければなりません。
純粋にビジネスとして捉えれば、ジムを利用せずに会費だけ払ってくれる会員は「いいお客さん」なのかもしれません。仕事が多忙であるとか、長期の旅行に出かけているとか、事情は色々とあるのでしょう。しかし、ジムを取り巻く社会全体を客観的に見れば、ジムを利用せずに毎月会費を口座から引き落とされっぱなしの会員は、「使える権利をあぶれさせている」もったいない存在だと捉え直すこともできます。
こうした事実上未使用の会員権を、一種の「遊休資産」だとすれば、遊休資産を必要な人へ一時的に貸し出して、社会全体で共有する「シェアリングエコノミー」に乗せることもできるでしょう。たとえば、出張で海外に3か月出かけるため、ジムを使えなくなる会員がいれば、その3か月間の会員権をデジタルトークンとして売り出します。このトークンはブロックチェーン上で、仮想通貨とほぼ同じ機能を果たしますので、多くの人がその会員権に価値があると感じていれば、トークンの取引価格も引き上がります。会員は海外出張を理由にジムを解約する必要もなく、しかも支払う会費の大半をトークン売買で取り戻すことができるかもしれません。
一般的なシェアリングエコノミーでは、取引価格に運営会社の利潤が上乗せされていて、金銭的な負担が割り増しになるものですが、ブロックチェーンによってシェアリングエコノミーを運営する会社が不要となれば、取引手数料も大幅に下げられるかゼロにできる可能性があります。実際に通う人が増えれば、ジム側も実績をつくるチャンスが増え、その実績で新たな会員を呼び込むこともできるでしょう。使われなくなった会員権を、ブロックチェーン上で売買できるようになれば、全体として無駄を省けるのです。
ブロックチェーンは最新式の暗号技術ですから、会員権の売買によって相手方へ氏名や住所などの個人情報が知られるおそれもありません。
2.2ヘルスケアデータの活用(トレーニングデータをトークン化する)
たとえば、ジョギング・ランニングであれば、スマートフォンのGPS機能によって、走行ルートや距離、速度などを自動的に計測できます。そこに心拍数を検知するセンサーが加われば、消費カロリーも正確に測定することが可能です。
筋トレやスクワットなどの運動も、各種センサーで回数や強度を計測できる可能性があります。最新の体重計なら体脂肪率や筋肉量なども測ることができるでしょう。もし、消費カロリーや筋肉量に応じて、経済的価値のある独自トークンがブロックチェーンから自動発行されれば、トレーニングの励みになると感じて、モチベーションが向上する人は多いはずです。
また、トレーニングの進行状況や運動の強度などに応じて、反応が良さそうなネット広告を自動的に見せることもできます。ジョギングの愛好家であることがデータで客観的にわかったら、上級者用のランニングシューズを勧めることが可能です。GPSの位置情報や日時から草野球チームに所属していると推測されれば、バットやグローブなどの広告が表示される頻度を高めることも重要です。
トレーニング器具などを開発・販売する企業ならば、ブロックチェーンが収集した人々のトレーニングデータや成果に関する情報を、お金を払ってでも欲しがる場合もありえます。この買い取り報酬もトークンで支払えれば効率的で、手間なく即座に決済が完了します。今までは、企業がスポンサーとなってお金を受け取ることができたのは、プロのアスリート・スポーツ選手に限られていましたが、ブロックチェーンを介することにより、「スポンサーの支援によって運動やスポーツをする」という選択肢が一般大衆にまで広がっていくとも考えられます。
さらに、別のスポーツジムに移る場合も、前のジムのトレーニング中にブロックチェーン上で記録されたデータが、新しいジムでもそのまま引き継げる可能性があります。今までは特定のジムのみで管理されていたデータが、ブロックチェーンを通じてジム業界全体の共有財産となりうるのです。
また、身体のデータから、運動量が十分であり、健康診断の結果、体重や体脂肪量が適切で、ウェアラブルデバイスで測った心肺データも正常であると判明したなら、医療保険などの保険料を割り引くトークンを発行することもありえます。自動車保険に無事故割引があるように、健康な日常生活を続けている医療保険の加入者には、医師の世話になるおそれが少なく、実際に保険金を受け取る可能性も低いと考えられるため、保険料の割引トークンを発行することにも一定の合理性があります。
もっとも、割引権がトークン化されている以上、謝礼やプレゼントなどとして、他人に割引クーポンを譲渡することも自由にできます。ジム業界にトークンエコノミーが浸透すれば、トレーニングによって健康状態を維持できるほど、多くのクーポンを受け取れますし、クーポンの注目度が上がれば、トークンの取引価格も上昇し、健康になればなるほど経済的にも得をするという好循環が生まれていくことでしょう。
サマリー
スポーツジムでは、月額会費を支払ったままジムに通わなくなる休眠会員が少なくない。そこで、休眠会員の会員権をトークン化して、自由に売買できるようになれば、全体として無駄が少なくなるメリットがある。また、トレーニングなどによって健康を維持している会員に対して、報酬としてのトークンを発行できるようにすれば、会員のモチベーションが上がり、ジム業界内で新たな経済圏が生まれ、取引も活発になるだろう。こうした新基軸のシステムを支える基盤となるのが、ブロックチェーンという暗号技術である。
おわりに
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