美容院・エステサロンでブロックチェーンを活用する4つのメリット
いったん書き込まれたデータが不正に改ざんできないブロックチェーンは、美容院・エステサロンの業界にも恩恵をもたらすと考えられています。今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、美容室・エステサロンの業界でブロックチェーンを導入するメリットを4つ解説しています。
目次
1.ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは、特定の管理者がいなくても自律的に運営され、そこに記録されたデータは何者も不正に書き換えることができない新型の暗号技術です。2009年に初めてビットコイン(Bitcoin/BTC)で実用化され、まだ10年あまりしか歴史がありませんが、実際にブロックチェーンが直接攻撃されて、データが完全に書き換えられた例はありません。仮想通貨の流出事件はたびたび起きていますが、すべて仮想通貨取引所の管理体制の甘さが原因で起きており、ブロックチェーンそのものの欠陥が原因ではありません。
このブロックチェーンは、イーサリアム(Ethereum/ETH)という仮想通貨プラットフォーム上で、契約を自動執行する「スマートコントラクト(スマートコントラクト/Smart Contract)」に進化しました。このスマートコントラクトを応用させることで、各業界の様々なデジタル情報が、特定の管理者がいないにもかかわらず自律的に運営され、不正な書き換えができないようになっており、より利便性や安全性の高いサービスへと進化しているのです。
2.美容院・エステサロン業界でブロックチェーンを導入するメリット4選
美容業界も例外ではありません。美容院やエステサロンでも、ブロックチェーンを組み込んだシステムを採用することで、従来から抱えていた問題に解決策がもたらされています。
メリット①レビューでの不正が行われる可能性が低い
たとえば、美容院やエステサロンなど、店舗単位で顧客がレビューを書き込める評価共有サイトは、従来からありました。ただ、美容院やエステサロンは、具体的な施術付きの接客業であり、その満足度は店そのものよりも、美容師やエステティシャン個人の対応に関わっていることが多いのではないでしょうか。
常連客も、ほとんどの場合、特定の美容師やエステティシャンを予約して利用しますから、ファンは店ではなく個人に付いています。その美容師やエステティシャンが別の店に移ったり、独立開業したりすれば、店から離れてそのまま付いていく客もいます。よって、店に対する評価よりも、接客・施術している専門家個人に対する評価を共有したほうが、レビューサイトのあり方として合理的です。
よって、美容師やエステティシャン個人が、別の店に移っても客からの評価を引き継げるレビューサイトを、ブロックチェーンを中心に構築できる可能性があります。管理者不在のブロックチェーン上に書き込まれていれば、たとえばレビューサイトの運営会社に対して広告などを積極的に出稿し、多めに出資している美容師やエステティシャンの評価に手心を加えたりする不正が介在するおそれがありません。
メリット②低評価での嫌がらせを回避できる
このブロックチェーンが、代金の決済機能とも関連付けられていれば、実際に利用した顧客のみがレビューを書き込めるようになるため、嫌がらせ目的の低評価が書き込まれる危険を避けられます。
また、従来型のレビューサイトでは、悪意ある低評価を取り消すことが原則としてできず、それが一種のデジタル・タトゥーとして半永久的に消えない汚点になってしまうことがあります。しかし、顧客に揉まれて反省し、プロは成長できるのです。たとえば、スマートコントラクトの機能を応用し、一定の期間が経過すれば高評価も低評価も一律で自動的に消去されるようにすれば、その美容師やエステティシャン個人が実施する、最新の技術や応対のみを有意義に共有できるようになるでしょう。
メリット③美容師やエステティシャンの待遇改善につながる
さらに、オンライン指名や高評価が多く寄せられた美容師やエステティシャンに、ブロックチェーンが自動的に独自のトークン(仮想通貨に類似した経済価値を伴うデータ)を発行できるようにすれば、今後の仕事の励みにもなります。このトークンが、レビューを書き込んだ顧客への謝礼や評価、あるいはお気に入りの美容師やエステティシャンへの応援として、ブロックチェーン上で盛んに交換されるようになれば、トークンの取引価格も次第に上がっていき、利用者は実質的により安く、美容院やエステサロンを使えるようになります。加えて、美容師やエステティシャンの待遇改善にも結びついていくでしょう。
このトークンエコノミーが進展していけば、なかなか予約が取れない人気の美容師やエステティシャンの予約枠そのものをトークン化して、売買・交換の対象にする場合もあるでしょう。こうした取引のプラットフォームとしてもブロックチェーンは機能します。ある日時に、ある美容師・エステティシャンを予約できるのは1人だけであることから、予約枠トークンを、この世に唯一であることを裏付けるNFT(非代替性トークン)とすれば、取引価格が高騰しますし、その価格の一部を美容師・エステティシャン本人に還元されれば、さらなるモチベーションの向上に繋がるものと考えられます。
メリット④化粧品・美容用品のトレーサビリティ確保
たとえば飲食業界では、食中毒や期限切れ食品の回避など、消費者の「食の安全」を確保するため、食材の生産や流通、加工のプロセスなど、一連のサプライチェーンに関する客観情報を自動的に記録し、ブロックチェーン上で共有する「食品トレーサビリティ」が注目を集めています。
このトレーサビリティ機能を、美容院やエステサロンが取り扱う化粧品や美容用品などにも応用する気運が高まっています。
化粧品やサプリメントなどの美容関連用品も、食品と同じように服用したり、身体に対して直接付着させたりするものですから、「食の安全」にも匹敵する安全性・信頼性が求められています。
どこで誰が製造したのか、いつ、どこへ輸送されたのか、適切な温度や湿度で管理されていたか、などの基本情報を、その品物ラベルに貼付されているQRコードを読み取ることで、顧客が過去に遡って知ることができれば、そうした提供情報の透明性や客観性から、信頼感に繋がるのです。
たとえば、責任者の特定にはIDカードを用いたり、保管場所には温度や湿度を感知するセンサーを常設していたり、製品そのものにはGPSによって位置情報を出力する小型のIoTタグなどを取り付けたりしています。これらの方法によって、トレーサビリティに関連する諸情報を機械的に収集し、ブロックチェーン上に保存するのです。有効期限の経過による製品の廃棄ロスを減らすため、有効期限の改ざんを行う不正も、トレーサビリティを確保しておけばすぐに発覚します。そうして、美容関連商品の利用者の安全が無事に保たれるのです。
もし万が一、利用者に体調不良などの異変が生じても、トレーサビリティで原因を客観的に特定できる可能性があります。従来であれば、万全を期して製品を全廃棄しなければならないかもしれません。しかし、トレーサビリティが確保されていれば、原因を作ったプロセスを経過している製品のみを廃棄すれば足りますので、無駄を省けます。
3.美容院・エステサロン業界のブロックチェーン導入事例
フランスを拠点にオーガニック化粧品などをグローバルに展開するSeqens Cosmeticsも、ブロックチェーンを組み込んだ信頼性や透明性の高いトレーサビリティシステムを採用しています。同社では製品の「原材料」「有機原料の保管場所」「洗浄剤の投入を含む製造プロセス」「有機活性成分の貯蔵場所」をトレーサビリティの対象としています。これらの自動記録データが、公式サイトに設置された専用の検索画面に製品のID番号を入力すると、購入者を含めて誰でも閲覧できるようになっているのです。
もっとも、厚生労働省などの官公庁や、民間の専門認証機関などが、化粧品や美容用品、サプリなどの安全性を点検するなど、従来型の信用性を担保する手段も大切です。その上で、さらに進めてブロックチェーン技術によって、信頼性を高めていく努力と覚悟を見せられる企業が、次世代の美容業界でも生き残り、成長を重ねていくに違いありません。
サマリー
いったん書き込まれたデータが不正に改ざんできないブロックチェーンは、美容院・エステサロンの業界にも恩恵をもたらすと考えられている。たとえば、店ではなく美容師やエステティシャンといった専門家個人に対する顧客のレビューを共有でき、その専門家個人が他の店に移ってもレビューを有効に持ち運びできるようにもなる。レビュー内容に手心が加わる余地もない。また、美容院やエステサロンが販売する美容関連商品のトレーサビリティを客観的に確保できるものと期待されている。
おわりに
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参考文献
国内初!美容業界の問題を解決するための美容師とブロックチェーンを繋げるプロジェクト
IT大手「カカオ」、初のブロックチェーンサービスはビューティ?