【アーティスト格差】音楽業界の問題点とブロックチェーンが提示する2つの解決策
音楽業界は、インターネットの急激な普及によって「アーティスト格差」という問題に直面しています。
上位10%未満の一握りのアーティストだけが勝ち残り、残りの90%以上の大多数のアーティストはそもそも認知すらされていないという現状があるのです。
このアーティスト格差の問題は音楽業界を長年苦しませてきたものでした。
しかし近年、ブロックチェーンの登場により、アーティスト格差に終止符を打つ2つの解決策が見えてきたのです。
この記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、アーティスト格差とブロックチェーンによる2つの解決策について、その過去の歴史から未来の展望まで詳しく解説しています。
目次
アーティスト格差の原因
音楽業界は、いつの時代でも一部のアーティストだけが勝ち残りやすい構造になっています。この理由はいくつもありますが、最も大きな理由は、人気のある一部のアーティストはテレビなどのメディア露出が増え、さらに人気を高めていく一方で、人気のないアーティストはメディアに露出することがなく、認知すらされない現状があるからでしょう。
特に、日本において「CDバブル」とも言われた1990年代後半は、格差がさらに広がった時代でした。日本の音楽CDの生産は1998年がピークで、その生産枚数は4億5717万枚、市場全体の総売上はなんと5879億円とも言われています。もちろん、この売上の殆どはミリオンセラーを達成している人気アーティストが獲得したものであり、アーティストの多くはCDが売れないどころか、そもそも存在すら認知されていませんでした。
1999年になると、世界中でCDを含めた音楽ソフトの売上が一気に落ち込みます。この理由としては、MP3とインターネットが普及したことによって違法コピーや違法ダウンロードが広まったことが影響しています。これによって音楽業界は大きな打撃を受け、音楽業界はインターネットを脅威と考え、敵視するようになりました。
しかし2004年、このような違法ダウンロードの蔓延する音楽業界に、一筋の光が差し込みます。Appleのスティーブ・ジョブズが、正規の音楽配信が違法ダウンロードに勝つと信じてiTunes Music Store開始しました。当時、音楽業界はインターネットでの音楽配信そのものを敵視していたので、スティーブ・ジョブズのiTunes Music Store開始には多くの批判もありましたが、それを押し切ってのサービス開始だったのです。
ご存知の通り、このAppleのiTunes Music Storeは大成功を収めました。Appleが成功したのは、スティーブ・ジョブズによる優れたマーケティング手法やiPodの洗練されたデザインによる影響ももちろんありますが、新曲をCDを買わずとも発売日に聞けるということや、プレイリストが充実しているといった高いユーザーエクスペリエンスを実現できたことも要因に含まれています。米国では、2011年に音楽ダウンロードの年間売上高が全レコードの音楽売上高の51%を占めました。
そしてついに、音楽業界はストリーミング時代という新たな局面を迎えることになります。近年ではSpotifyをはじめとする音楽ストリーミングサービスがユーザー数を伸ばしており、2017年にはストリーミングの売上がCDなどのフィジカルメディアの売上を上回りました。AppleもこれまでのiTunesによる一曲ごとの販売からストリーミングのApple Musicへの主軸を移行しています。そして今では、音楽は「所有」せずにストリーミングで聴くのが主流となっているのです。
音楽ストリーミングサービスが格差を助長した!?
音楽ストリーミングサービスは、登場した当初は「アーティスト格差」を埋める鍵になると考えられてきました。なぜなら音楽ストリーミングサービスでは、今までのCDなどと違って自分が知っている人気アーティストの曲だけでなく、誰も知らないようなニッチな楽曲まで楽しむことができるからです。音楽ストリーミングサービスが普及すれば、非ヒット曲がかつてないほどシェアを拡大するのではないか、そんなふうに考えられてきました。
このように、ネット上の販売において売れ筋がメイン商品の売上よりも、あまり売れないニッチな商品群の売上合計が上回る現象のことをマーケティングの用語で「ロングテール現象」と言います。実際、AmazonやNetflixなどのIT企業の売上分布は、このロングテール現象が起こっていると言われています。
しかし、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスに、このロングテール現象は起こりませんでした。それどころか、音楽ストリーミングサービスは「アーティスト格差」を広げていたのです。
2020年に行われた調査によると、音楽ストリーミングサービスのうち、上位10%の人気アーティストが、再生回数の99.4%を占めていることが明らかとなりました。この結果が示していることは、音楽ストリーミングサービスは人気アーティストとそうでないアーティストの格差を、さらに広げたということだったのです。
ブロックチェーンが提示する「アーティスト格差」の2つの解決策
このように、音楽業界はこの「アーティスト格差」という問題に長年頭を抱えていました。しかし近年、この問題を解決するためにブロックチェーンを音楽に活用しようとする動きが広まっています。
特に日本で注目するべきなのは、一般社団法人日本著作権協会(JASRAC)のブロックチェーンを活用した取り組みです。JASRACは2018年ごろから著作権使用料の取引管理へのブロックチェーンの活用に関する検証を実施しました。
2019年10月からは音楽作品情報に関するデータの信頼性を高め、その流通プロセスの透明性や効率性を向上させることを通じて、権利者への対価還元(著作物使用料の分配)を質・量ともに高めることを目的として、ブロックチェーンに関する検証実験を次々と実施しています。
では、具体的には音楽の著作権情報をブロックチェーン上に記載することで、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。
それは、一般的には次の2つだと言われています。
①楽曲の著作権を保護し、適正な価格で音楽の売買取引が行われる
インターネットが発達した現代においては、音楽が違法アップロードされることが多々あります。もちろんJASRACなどの著作権管理団体はこれらの違法アップロードを削除したり法的手段に訴えたりすることで、楽曲提供者の保護をしていますが、その全てを取り締まることは非常に困難です。そのため、アーティストが本来受け取るはずだった報酬が不当に低くなっているという現状があります。
特に、ファンが少ないアーティストにとってこれは死活問題です。潜在的な可能性を秘めたアーティストが活動資金の限界を迎え、その才能を開花することなくアーティスト活動を断念してしまう場合すらあるのです。
ここに、ブロックチェーンを音楽に活用する意義があります。JASRACが行っている活動のように、改ざんが不可能なブロックチェーンで著作権情報を記録することで、違法アップロード作品を取り締まり、作品を欲しいと思うファンへ適切な価格で作品を届けやすくなるのです。この試みがうまくいけば、ファンの絶対数が少ないアーティストでも十分な収益を稼げる可能性が高くなり、「アーティスト格差」に苦しんでいる多くのアーティストが活動しやすくなると考えられます。
②楽曲転売時にも収益が発生する
また、ブロックチェーンを活用すると、その楽曲がより高い値段で他者に転売された場合、手数料をアーティストに対して発生させることが可能です。
今までは、販売されたレコードが他者に転売された場合、著作者に対して利益は発生しませんでしたが、ブロックチェーンを活用すると楽曲の著作者情報や取引データなどを記録し、追跡することが可能なので、著作者に対して利益を発生させることができるのです。
このような仕組みを活用することで、アーティスト側により永続的な収益を発生させ、才能はあるがファンの少ないユニークなアーティストが活動を続けられるようになると期待されているのです。
JASRACでは、音楽管理へのブロックチェーンの活用の実用化を、2022年を目標に進めています。この取り組みによって、これまで「アーティスト格差」によって思うように活動できなかった才能ある多様なアーティストが、その個性を発揮して活躍する。そんな音楽業界の「ロングテール時代」が、もう目の前まで迫っているのかもしれません。
まとめ
今回は、音楽業界の課題である「アーティスト格差」と、ブロックチェーン活用による2つの解決策について解説しました。
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参考文献
Rolling Stone『音楽ストリーミングの成長、アーティスト格差広がる』
m-cp.com『ストリーミングを聴きながら音楽ビジネスの歴史と未来を考えてみた』
JASRAC公式HP『ブロックチェーンを活用した音楽作品情報の登録と共有に関する実証実験を開始します。』
JASRAC公式HP『音楽クリエイターの楽曲管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた実証実験を行いました。』