【ブロックチェーンの未来】日立とみずほが挑む、物流業界の2つの壁

by AIGRAM

ビットコイン(Bitcoin/BTC)などの暗号資産の基盤技術として用いられているブロックチェーン。
この技術は現在、暗号通貨の領域にとどまらず、アートや医療、教育などさまざまな分野にて応用されています。

そして、ブロックチェーンは物流業界の問題を解決する可能性があると期待されており、未来に向けた実証実験が急速に進められています。
その代表例が、日立製作所とみずほフィナンシャルグループによる共同実証実験です。

今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、日立とみずほが押し進めるこの実証実験について解説していきます。

目次

物流業界の2つの壁

物流業界は今、大きな2つの課題に直面しています。
それが「①労働力不足」と「②運送会社の資金繰り」です。

国土交通省の「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」によると、道路貨物運送事業において、2014年度末の消費税増税前を契機に労働力不足が顕在化しました。さらにトラックドライバーは全産業平均以上のペースで高齢化が進んでおり、高齢増の退職などを契機として今後さらに労働力不足が深刻化する恐れがあります。

このような状況の中で、物流業界では労働環境の整備、煩雑な帳票管理の解決に向けて、見積・発注管理、配車・運行管理業務、請求管理などのDX化が加速しています。

それに加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、運送会社の資金繰りが火急の課題となっています。輸配送代金の早期資金化は、物流業界の発展に寄与する重要なテーマとなっているのです。

日立とみずほの実証実験

これら物流業界の2つの課題に対処するため、2020年12月28日に日立製作所とみずほフィナンシャルグループは、みずほ銀行・みずほ情報総研・Blue Labと共同でブロックチェーン技術を活用した物流業界の輸配送代金の早期資金化に関する実証実験の開始を発表しました。

物流業界では、荷主から発注後、物流経路などに応じて複数の運送会社に運送事業を委託する多重構造の商流が存在しており、これが物流業界の資金繰りを悪化させる要因となっていました。そこで同実証実験では、これら物流データと連携したファイナンス提供を行い、輸配送代金の早期資金化を目指します。

具体的には、顧客のデータから価値を創造し、デジタルイノベーションを加速するための日立のデジタル技術を活用したソリューション・サービスである「Lumada」で開発を進める「サプライチェーン決済プラットフォーム」上で、みずほが開発する新たな「ファイナンス決済スキーム」を金融付加価値として提供していくというものです。

以下では、日立の「サプライチェーンプラットフォーム」とみずほの新たな「ファイナンス決済スキーム」に関して具体的に説明していきます。

日立の「サプライチェーン決済プラットフォーム」とは

日立のサプライチェーンプラットフォームは、ブロックチェーン技術を活用して複数事業者間での決済取引を支援する決済プラットフォームです。このプラットフォームでは、事業者間で共有・活用するデータをトークンとして扱うことで、真正性や耐改ざん性を確保しながらデータを管理します。

これによって利用業者は取引情報を活用した金融サービスを享受でき、資金繰りの改善や運転資金確保ができるほか、金融機関は取引情報を分析して各種金融サービスへの活用が可能になります。

ちなみに、同プラットフォームは日立の「Hitachi Blockchain Service for Hyperledger Fabric」を活用しています。これは非営利団体The Linux Foundationが運営するクロスインダストリー(異業種連携)共同開発プロジェクト「Hyperledger」によるブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」の利用環境をマネージド型クラウドサービスとして提供するものであり、日立製作所は2020年10月にHyperledgerが認定するベンダー資格を有する企業の一社に認定されています。

みずほの新たな「ファイナンス決済スキーム」とは

みずほの新たなファイナンス決済スキームは「①スマートファイナンス」と「②スマート決済」という2つの特徴を持っています。

スマートファイナンス

スマートファイナンスとは、サプライチェーンにおける川上企業が将来の売り上げ見合い(将来再建)を川下企業の信用力で割引可能とすることです。具体的には、発注時点で将来債権をトークンとして表象させることで、債権者は物流工程の進捗により判断される信用力によりトークンを割り引くことが可能となるのです。利用企業は、サプライチェーンの商流を裏付けとした将来債権の資金調達により、物流業界の課題である「資金繰り」の改善や迅速な運転資金確保が可能となります。

スマート決済

スマート決済とは決済オペレーションの効率化を推し進めたものです。具体的には、ブロックチェーン技術を適用しサプライチェーン内の債権・債務を一元管理することで物流と金流を連動させ、資金決済の事務負担となっていた称号管理業務などを省力化させます。さらに、支払データ作成事務のオペレーションの自動化なども想定されています。これによって、物流業界のもう一つの課題である「労働力不足」の改善も図ることができるのです。

日立とみずほの今後の取り組み

今後は同実証実験を踏まえ、日立は同プラットフォームの開発を進め、金融以外の業種とのサービス連携を含め、幅広い展開を検討しています。一方でみずほは新たなファイナンス決済スキームの確立に向け、技術面以外にも、法律や会計などに関する整理を行い、物流業種以外の職種へのニーズ調査なども含めて、ビジネス化に向けて検証を実施していく予定です。

また、みずほは2021年9月16日に丸紅株式会社と丸紅の業務提携先であるシンガポールのBlockchain Solutions Pte. Ltd.と構築したブロックチェーン技術を用いたオンライン金融プラットフォームを通じ、丸紅の仕入れ先に対するサプライチェーンファイナンスを実行しました。これも、同実証実験を踏まえたものとなっていると考えられます。

このオンライン金融プラットフォームではブロックチェーンを活用してデータの耐改ざん性を担保することで、オンライン上のデータを基にサプライチェーンファイナンスの利用申請・承認が実行できるようになり、従来の金融機関との取引におけるオリジナルの貿易書類の受け渡しプロセスと比べ、仕入れ先からの早期現金化ニーズに応えることができるようになります。2021年9月8日にはこのプラットフォームによるサプライチェーンファイナンス取引を、丸紅の取引先である電気自動車機器メーカーに対して行いました。

このようにみずほ銀行は、グループの5カ年経営計画で掲げる「次世代金融への転換」に向け、デジタライゼーションへの取り組みや外部との積極的な協働を加速させています。最近では瑞穂に関してはシステム障害の悪いニュースばかりが報道されますが、こうしたブロックチェーンを活用したみずほの取り組みは評価されるべきではないでしょうか。

まとめ

今回は、日立とみずほが進めているブロックチェーンを活用した実証実験について解説しました。

このサイトではブロックチェーンに関連したビジネスや暗号通貨についての記事を発信しています。今回の記事が良かったという方はぜひ他の記事もチェックしてみてください。

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参考文献

NHK WEB NEWS『金融庁 みずほに業務改善命令 相次ぐシステム障害で』

Yahoo!ニュース『みずほ、今年8回目のシステム障害 外貨建て送金に遅れ』

Techdrunch『日立とみずほがブロックチェーン活用した金流・商流・物流の一体管理とサプライチェーンファイナンスの実証実験』

国土交通省『物流を取り巻く動向と物流施策の現状について』

みずほ銀行公式HP『ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーンファイナンスの展開について』