【徹底調査】飲食業界におけるブロックチェーンの活用事例3選
ブロックチェーンは、様々な課題を解決できる可能性を秘めた暗号技術です。このブロックチェーン技術を飲食業界で活用することで、様々な課題が解決できることが期待されています。今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、ブロックチェーンを飲食店で活用した3つの事例を紹介します。
目次
1.今、ブロックチェーンに注目が集まっている理由
ブロックチェーンは最初、仮想通貨のビットコイン(Bitcoin/BTC)を支えている基幹技術として注目されていました。仮想通貨は、電子マネーなどに似ていると思われがちですが、仮想通貨が電子マネーと最も大きく異なる点は、ブロックチェーンによって特定の企業や管理者がいなくても、不正が入らずに運営ができることです。
大企業や政府に大量の個人情報が蓄積されており、コンピュータシステムを通じて様々な操作や干渉が行われているとみられることから、大企業や政府に不信を抱く人々も増えてきました。そのような時代背景も手伝って、不正な改ざんができない特殊なデジタルデータであり、特定の組織が中心となって関与しなくても動き続けるブロックチェーンに注目が集まっているのです。
2.飲食業界へのブロックチェーン活用事例3選
現代においてブロックチェーンは、様々なかたちで応用されています。たびたび起きる食中毒や産地偽装、さらに新型コロナウイルスによる感染拡大の影響で、深刻な売上減に見舞われたこともある飲食業界でも、ブロックチェーンを軸にして顧客からの信頼を取り戻そうとする例が増えてきています。
活用事例①「食品トレーサビリティ」で産地偽装を予防
産地偽装は、「料理や食材だけを見ても、消費者に産地はわからない」という前提で、生産者や流通業者が虚偽を表示したり、消費者に伝えたりすることによって起きます。
そこで、消費者が、購入した食材や料理の生産者の氏名や所在地、いつ発送されたのか、どこで保管されたのか、そのときの保管温度は適切だったか、加工や運搬の責任者は誰かなど、自動的にブロックチェーンで記録された基礎情報を知ることができる「食品トレーサビリティ」が注目されているのです。トレーサビリティ(traceability)とは「追跡できること(追跡可能性)」という意味です。
さらに、この食品トレーサビリティは、ブロックチェーンと結びつけることによって、特定の企業の思惑による虚偽を介在させないようにすることで、さらに信頼性が向上するものと期待されています。
たとえば、食品流通などの小売マーケット業で世界最大手とされる米ウォルマートや、大手の仏カルフールなどは、IBMと連携してブロックチェーンを組み込んだ食品トレーサビリティシステム「IBM Food Trust Network」をいち早く導入しています。これにより、店頭に置かれている肉・魚・野菜などの生鮮食品の出荷先などを、スムーズに特定できるようになっているのです。
買い物客は、食品ラベルに印刷されているQRコードを、所有しているスマートフォンでスキャンすれば、その食品の生産者だけでなく、店舗に至るまでの流通や加工のプロセスに関する完全な情報を知ることができます。そうして、食品の安全性と透明性の最大レベルを保証しています。
今までは、生産者と流通業者、加工業者、店舗が、それぞれ別々のITシステムを利用していたため、トレーサビリティが断片的なものに留まっていました。これらのバラバラだったデータ群を「IBM Food Trust Network」がブロックチェーン上に束ねて一元的に管理したことで、信頼性が高まったのです。
たとえば、ある食材で食中毒のおそれが発覚した場合、食品トレーサビリティのシステムがなければ、万全を期して仕入れた食材すべてを廃棄しなければならない可能性が高いです。しかし、食品トレーサビリティシステムがあれば、食中毒の原因が発生したルートを通っていない食材を廃棄せずに済み、フードロスの大幅な削減に繋がります。
しかも、「IBM Food Trust Network」のようなブロックチェーンと紐づけられているシステムであれば、ウォルマートやカルフールのような小売店が、仕入れを廃棄するコストを嫌って、トレーサビリティのデータを都合良く変更し、危険性の高い食材をそのまま消費者に販売するような不正も避けることができ、信頼性がより高まるのです。
食品トレーサビリティに関しては、独自の動きが日本国内でも展開されています。2017年、一般社団法人日本ジビエ振興協会は、国内ブロックチェーン企業のテックビューロ社と提携して、野生の熊・鹿・イノシシなど、ジビエ食肉に関するトレーサビリティにブロックチェーンを組み込んだシステムを導入し始めました。
ジビエ食肉の多くは、レストランなどの飲食店が仕入れたり、通販などで消費者が直接購入したりします。そうした流通業者や最終消費者が、ブロックチェーンに記録されたジビエの産地や加工地などを参照できるようになります。そうして、手元に届いたジビエ肉が、協会の定めた規格に則った、安全な食肉だと確認できるのです。
活用事例②店員を呼ばず、その場で会計
ブロックチェーンは「食の安全」を担保するだけでなく、さらに飲食店での利便性を高める面でも役に立ちます。
すでに、客が注文をテーブル上のタブレット端末などからオンラインで行える無人発注システムを導入する店舗も増えています。これによって、注文を取るためにホールスタッフが厨房とテーブルの間を1往復する手間や時間を省けます。店員に求められるオペレーションを減らすことで、経営の効率化や労働生産性の向上を図ることができるでしょう。
さらに、テーブル上で店員を呼ばずに会計を済ませることができるシステムも開発されています。この自動会計システムはお金が絡むために、不正の介在する余地が限りなく少なくすることが可能なブロックチェーンを採用するのが一般的です。
このシステムに加入している店舗のIDと顧客のID、そして伝票IDと利用金額で取引を特定すれば、これらの情報を含むQRコードが自動的に発行され、伝票に印字されます。このQRコードを顧客が手持ちのスマートフォンなどで読み取るだけで、会計を完了させることができるのです。
顧客と飲食店の取引を、ブロックチェーンが仲介しているため、返金処理などもスムーズに進みます。
このテーブル会計システムが普及すれば、店員の配置やオペレーションをさらに省力化し、人材を効率的に活用することで、利益率の向上にも結びつきます。また、特に会食やデートなどで、店員を呼ばずに会計をその場で済ませることができるのは、飲食店の顧客にとってもメリットが大きいといえるでしょう。
活用事例③不正操作の余地がない「飲食店レビューシステム」
飲食店を顧客が自由に評価し、その評価を共有できるレビューシステムが盛んに使われています。
しかし、「食べログ」や「ぐるなび」などに対して、過去には公正取引委員会の調査が入ったことがあるように、評価が不正操作されているのではないか、との疑いを拭い去ることはできません。たとえば「高額の広告料などを受け取った飲食店に対して、特別に評価が上乗せされているのではないか」と疑われてしまうのは、その評価システムを展開している特定の企業のみが評価内容を管理しているからです。
もし、この顧客からの評価を、評価システムの管理企業から切り離したブロックチェーン上に記録すれば、評価の不正操作が疑われるおそれがなくなります。評価システムの管理企業は、世間による疑いの目を向けられることから解放されますし、消費者にとっても飲食店に対する評価が信頼されるものとなります。
また、ブロックチェーンによって紐づけられた独自のデジタルトークンを、飲食店の評価に協力した顧客に対して「謝礼」として自動発行するようにできれば、積極的に飲食店を評価しようとする利用者がさらに増えていくものと期待されます。このデジタルトークンは、ビットコインや日本円など、他の通貨との交換価値があるものとして流通させることもできますし、飲食店の割引クーポンとして利用することもできるでしょう。そうして飲食業界のエコシステム内で、ブロックチェーンを中心としたトークンエコノミーを加速させることが可能となります。
サマリー
ブロックチェーンは飲食業界とも相性が良く、利便性を高め、「食の安全」を強化させる方向でさらに進化させるものと期待されている。たとえば、食材の生産者や流通業者、加工業者などの情報を、消費者が手軽に知ることができる「食品トレーサビリティ」や、店員を呼ばなくてもテーブル上で会計を済ませられるシステム、飲食店へのレビューを不正操作できないようにするシステムなどに、ブロックチェーンを活用する余地がある。
おわりに
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参考文献
【事例】ブロックチェーンで生産から消費まで「食のサプライチェーン」を可視化する
IBM Food Trustが正式ローンチ--ブロックチェーン利用の食品サプライチェーン追跡ネットワーク
CARREFOUR ARGENTINA ADOPTS BLOCKCHAIN TECHNOLOGY IN ITS HUELLA NATURAL BEEF CUTS