「デジタルツイン」について、知っておくべき3つのこと|メタバースとの違い・問題点・ブロックチェーンの活用について

by AIGRAM

この記事を読んでいるあなたは「デジタルツイン」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。デジタルツインとは簡単にいうと、工場や製品などに関わる物質世界の出来事を、デジタル上にリアルタイムで再現するための技術です。この技術によって、製品の製造工程や出荷後の管理をリアルタイムで監視し、システムに障害が発生する前に予測することができ、現在では産業工学、都市交通、顔認識、医療分野などで実際に導入されています。

今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、デジタルツインとよく似ている「メタバース」との違いや、メタバースが抱える問題点、そしてブロックチェーンの活用について解説しています。

目次

1.デジタルツインとは

デジタルツインとは「リアル(物理)空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術」のことです。現実世界の環境を仮想空間の中にコピーする鏡の中の世界のようなイメージであり、「デジタルの双子」の意味を込めてデジタルツインと呼ばれます。

デジタルツインは従来の仮想空間と異なり、よりリアルな空間をリアルタイムで再現できることが特徴です。そしてこれを可能にしているのがIoTやAI技術です。IoTで取得したさまざまなデータをクラウド上のサーバにリアルタイムで送信し、AIが分析・処理することで、デジタルツインはリアルタイムな物理空間の再現を可能にしているのです。

このデジタルツインは決して机上の空論などではなく、現在様々な分野で導入が進んでいます。その一例をご紹介しましょう。

例えば、アメリカのゼネラル・エレクトリック社は航空機エンジンのメンテナンスでデジタルツインを活用しています。また、「初めてのデジタルワールドカップ」と呼ばれた2018年のロシアワールドカップでは、デジタルツインを活用した「電子パフォーマンス&トラッキングシステム」というシステムで、選手とボールの動きをリアルタイムに把握することに加え、選手の心拍数や疲労度まで仮想空間でモニタリングされていました。他にも産業工学や都市交通、顔認識、医療分野など、さまざまな分野でデジタルツインが活用されているのです。

2.「メタバース」と「デジタルツイン」の違い

「デジタルツイン」とよく混同されるのが「メタバース」という言葉です。メタバースは2021年10月28日にFacebook社が社名を、メタバースを意識した「Meta」に変更して話題になりました。「メタバース」と「デジタルツイン」はよく似た概念であるため、ここで一度メタバースとの違いについて整理しておきましょう。

そもそもメタバースでは、仮想空間上で自分のアバターを操作しながら、他人のアバターとコミュニケーションをとることを目的にしており、利用者はメタバース上でゲームや仕事をしたり、様々な使用用途が考えられます。

一方でデジタルツインは、現実世界の「双子」を仮想空間上に作って、現実世界の問題の「シミュレーション」をすることを目的としています。そのため、メタバースはコミュニケーションを目的としているのに対し、デジタルツインは現実世界のシミュレーションをするという目的の違いがあるのです。

3.デジタルツインの問題点

さまざまな分野で活用されているデジタルツインですが、問題点も指摘されています。それが、データ管理の問題です。実は、デジタルツインに関して、ビッグデータの応用やデータ取得方法など、さまざまな研究がなされているにもかかわらず、デジタルツインのデータ管理に関する研究は今までほとんど行われてきませんでした。そのため、データの信頼性が担保されておらず、決して安全なデータ管理体制が整っているとはいえないのです。

また、デジタルツインでは現実世界の物理的な製品の状態をリアルタイムで監視するために、対応するデジタルツイン上の仮装製品は常に物理的な製品のデータに基づいて最新の状態に更新されます。つまり、デジタルツイン上の仮想製品は常に上書きされているのです。
実はここでも、問題が指摘されています。データが上書きされると、上書き前の仮想製品の履歴データは失われてしまいます。しかし、履歴データにはデジタルツインの製品がどのようにして今の状態に至ったのかという「進化の過程」について詳細に記録されており、性能の最適化やデザインの改善には欠かすことができません。そのデータが上書きによって失われてしまっているので、企業にとっては大きな機会損失になっているのです。

4.デジタルツインへのブロックチェーンの活用

これらの問題を同時に解決するためにはどうすればいいのか。そこで提案されているのが「デジタルツインへのブロックチェーンの活用」です。ここでは、どのようにデジタルツインのデータ管理にブロックチェーンを活用していくのかについて解説していきます。

そもそもブロックチェーンとは、ネットワークに接続された複数のコンピュータが暗号化されたデータを共有することで、データの改竄を防ぎ、透明性を担保する分散型台帳システムです。そのためブロックチェーンを活用することで、デジタルツイン上の仮想製品の履歴データを安全に管理できるだけでなく、データの改ざんを防げるので信頼性も担保できるのです。

製品のデジタルツインに対するブロックチェーンを活用した管理手法の有効性を示すために、札幌市立大学教授の武邑光裕氏は中古車市場の深刻な問題を解決する事例を解説しています。

現在、EUに登録されているすべての車両の約30%が、走行距離計の読み取り値を改ざんして走行していると推定されています。ここで、ブロックチェーン・ベースのデジタルツインの登場が期待されます。デジタルツインは、現実世界のオブジェクトをデジタルでマッピングすることで、仮想空間上の双子として機能するので、実際に走行するクルマのすべての情報は、デジタルツインによって追跡可能となるのです。

中古車を購入する場合、走行距離と実施された修理や定期的なメンテナンスの履歴よって販売価格が決まります。そして走行距離の改ざんなどは、ブロックチェーンを介したデジタルツインを追跡することで確認することができます。すべての修理、所有者によるすべての変更は、個々のブロックに保存され、改ざんすることはできません。

クルマは定期的に走行距離計の読み取り値をデータベースに報告し、修理や検査に関するデータも保存されます。データはパブリック・ブロックチェーンにミラーリングされ、走行距離の正確さが担保されます。これにより、中古車市場の信頼性は高まり、クルマの価格の透明性が維持されるのです。

また、これらのブロックチェーンに格納されたデータをピア・ツー・ピア・ネットワーク(を通じて要求者に直接送信し、データの共有をもっと便利にしようという提案をしている研究もあります。この場合、例えば製品の設計者が新しいデザインを改善するために製品の製造状況を知りたい場合、製造者に具体的なデータを要求することができるのです。

デジタルツイン技術の問題点であるデータ管理をブロックチェーンで補完するという考え方はまだまだ研究が始まったばかりで、今後の研究や実用化が期待されています。デジタルツインにブロックチェーンを活用して一体どんな問題を解決できるようになるのか。それを突き詰めた先に、もしかしたらまだ誰にも発見されていないビジネスチャンスが眠っているのかもしれませんね。

5.おわりに

今回は、デジタルツインに関して、メタバースとの違い・問題点・ブロックチェーンの活用について解説しました。

このサイトではブロックチェーンに関連したビジネスや暗号通貨についての記事を発信しています。今回の記事が良かったという方はぜひ他の記事もチェックしてみてください。

また、株式会社AIGRAMではブロックチェーン/AI技術を用いたWeb開発やアプリ開発、エンジニア育成、技術コンサルのご依頼を承っています。興味がある方は、ぜひコチラからご連絡ください。

参考文献

SoftBank『【図解】デジタルツインとは?やさしく解説』

Newsweek『ベルリンが「ブロックチェーンの首都」になった理由』

『Blockchain-based date management for digital twin of product』(Sihan Huang, Guoxin Wang, Yan Yan, Xiongbing Fang)

武邑光裕『プライバシー・パラドックス データ資本主義と「わたし」の再発明』(黒鳥社)