【ブロックチェーン結婚が増加中?】NFT指輪、ブロックチェーン遺言状など、いま冠婚葬祭のデジタル化が注目されている理由

by AIGRAM

NFTアートやNFTゲームなど、様々な分野で活用が進んでいるブロックチェーン技術。実は、結婚や葬式など、冠婚葬祭の場でもブロックチェーンの導入が進んでいるということはご存知でしたか?

今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、ブロックチェーン結婚やブロックチェーン相続など、冠婚葬祭の場でのブロックチェーンの活用事例をまとめています。

目次

1.ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、誰もが勝手に書き換えることができない公正さが保証された特殊なデジタルデータです。世界中にある多数のコンピュータ端末(ノード)に、最新の取引内容をコピーして記録しているため、その一部を書き換えても不正がすぐに発覚する仕組みとなっています。また、特定の管理者が存在しないので、ブロックチェーン上のデータの中身を、一部の企業にとって都合がいいようにコントロールすることもできません。

このブロックチェーン技術が、人類史上で初めて実用化された例こそが、皆さんもおなじみの「ビットコイン(Bitcoin/BTC)」、つまり仮想通貨(暗号資産)です。しかし、近年になって仮想通貨以外の目的でもブロックチェーンを応用する例が続々と増えています。

たとえば、イーサリアム(Ethereum/ETH)で最初に実装された「スマートコントラクト」では、契約関係をブロックチェーンに書き込むことで、契約書の内容を勝手に改ざんできないよう半永久的に保存するだけでなく、契約に書かれた条件を満たせば、契約内容を自動的に強制執行することも可能になりました。たとえば、借りた仮想通貨を返そうとしない人がいても、期限が来たら、裁判所を通さず強制的に仮想通貨を口座移転させることだってできるのです。

2.ブロックチェーンを活用した分散型サービス

こうしたブロックチェーンの特徴をさらに推し進めたのが、特定の運営会社がいない「分散型」の無人自動化サービスや、世界で唯一のデジタルデータであることを証明する「NFT(非代替性トークン/Non-Fungible Token)」と呼ばれる新技術です。

ブロックチェーンを応用した分散型サービスは、最初、金融業界で広まり、「DeFi(ディーファイ/Decentralized Finance)」ともいわれていました。たとえばPancakeSwapやユニスワップ(Uniswap/UNI)などのDEX(分散型無人取引所)がDeFiの有名な例ですが、近ごろでは金融業界以外でも普及し始めています。

また、NFTは最初、アートや芸能、サブカルチャーの世界で広まっていました。ビットコインは勝手に作ることができませんが、ビットコインを持っている人は他にもたくさんいますし、分割することもできます。しかし、NFTは分割することができない世界にひとつだけの「稀少品のデータ」とされ、数億円単位の高額で取引されて話題にのぼることもあるほどです。このNFTも他の分野で応用されることが期待されています。

たとえば冠婚葬祭に代表される、人々の生活にとって重大なライフイベントに関連する情報を、一連のブロックチェーン技術で裏付けて、より便利に充実したかたちで活用していく事例が増えているのです。

3.結婚の場でのブロックチェーン活用例

たとえば、ふたりの婚姻関係をブロックチェーンで裏付ける動きが始まっています。

活用例①スマートコントラクトによる婚姻証明書

日本など多くの国では、役所に婚姻届を提出したり、教会などの宗教施設で所定の儀式を執り行ったりすることで、法律上の婚姻関係が認められます。しかし、あえて届けを出さない事実婚・内縁関係を希望する男女も少なくありません。その中には婚姻届に代えて、ブロックチェーン上に婚姻記録を書き込もうとする人もいるのです。

史上初の例が、2014年に米フロリダ州のディズニーワールドで執り行われた「ブロックチェーン婚」です。婚姻を誓った男女は、夫婦となるために婚姻関係を証明する内容のQRコードをスキャンする「共同作業」を行い、そのQRコードのデータが直ちにブロックチェーン上に書き込まれました。婚姻届や戸籍は、役所の過失や都合で紛失・消失するおそれがゼロではありませんが、ブロックチェーンであれば世界中のノードが破壊されるほどの極端な天変地異がない限り保持されますので、「永遠の愛」を誓う手続きとしては、より優れているといえそうです。

また、同性婚が公式に認められていない国々では、LGBTQのカップルが婚姻届の代わりにスマートコントラクト(スマートコントラクト/Smart Contract)の婚姻証明書を作成する例もありえます。

その世界初とみられる例が日本で行われました。渋谷区と株式会社チェリーチェーンが共催したレズビアンカップルの「ブロックチェーン宣誓式」で、誓いの言葉がブロックチェーン上に記録されたのです。渋谷区は、日本で初めてLGBTQカップルに公式のパートナーシップ証明書を発行し始めた自治体です。もっとも、日本国が同性婚を法的に認めていないので、渋谷区のLGBTQカップルにも夫婦と同等の権利義務関係が存在するわけではありません。それでも、戸籍記録を上回る強固さを技術的に実現しているブロックチェーンが、ふたりの特別な関係を公認していることには、一定の社会的意義があります。

このほか、家事や育児の役割分担や、お互いの家族との付き合い、デートの頻度など、婚姻関係をめぐる諸条件を書き込んで、夫婦間のトラブル防止を図ることもできます。将来的には、婚姻証明書に組み込んだスマートコントラクトの自動契約執行機能によって、民法で定められた日常家事債務の連帯保証や、離婚後の財産分与や養育費の支払いなどを自動化できる可能性があります。もっとも、自動契約執行機能を採用するかどうかは、ふたりの合意で決めなければなりません。

実際に、2017年にロシアの夫婦が行ったブロックチェーン婚では、夫婦が所有している仮想通貨を家族一体の家計に置く運用がなされました。また、そのスマートコントラクト上には、婚姻契約解除の際、家族用口座にあるすべての仮想通貨が折半されることも書き込まれているそうです。

活用例②NFT化した結婚指輪をオンラインで交換

アメリカの大手仮想通貨取引所に勤める男女が2021年に社内結婚した事例では、ブロックチェーン上で婚姻関係を記録しただけでなく、2つの指輪を模式化したデジタル画像をNFTにして、オンライン上で送付しあったといいます。その交換履歴がブロックチェーン上に記録されているため、誰にでも見える形で永久に残るだけでなく、この世に「指輪」が2つしか存在せず、偽造も不可能だとされているのです。

4.相続の場でのブロックチェーン活用例

身近な家族が亡くなるという重大なライフイベントがきっかけで行われ、深刻な金銭トラブルの引き金にもなりうるのが遺産相続です。この遺産相続の手続きには、弁護士や裁判所、公証人など、様々な専門家が関わるわけですが、ブロックチェーンによる公証機能や自動執行機能によって、従来よりもスムーズに、かつトラブルを回避して進められる可能性が期待されています。

活用例①ブロックチェーン遺言書

遺言書は、人がこの世に残す最終の意思表示です。多くの場合は、相続人となる家族それぞれに対し、遺産をどのように分け与えるかがメインテーマとなりますし、一定の条件下では法的な拘束力もあります。ただ、確かに本人が書いた遺言書なのかどうかを確認するため、弁護士や裁判所、ときには公証人も関わりながら、間違いなく本人が執筆し、他の誰も書き換えていないことを実証しなければなりません。

しかし、データの改ざんができないブロックチェーンに遺言書を書き込めば、これらの法律上の手間は技術的に回避できるはずなのです。また、やっかいな手続きに惑わされず、もっと手軽に遺言書を作成できるメリットもあります。世界初のブロックチェーン遺言書プラットフォームである、アメリカの「NEMWill」は、遺言書のないまま事故で亡くなった青年の保有していた仮想通貨が、家族ではなく国の保管になってしまい、故人の意思と異なる処分を余儀なくされた出来事をきっかけに開発されたといいます。

また、故人の遺産分割の意思がスマートコントラクトに書き込まれていれば、ブロックチェーンに紐付いた資産は自動的に、相続人に分配されるため、家族間のトラブルも減ると考えられます。

なお、日本では、有効な遺言書の形式が法律で定められているため、ブロックチェーン遺言書が本格的に普及するには、民法などの改正が必要となります。

活用例②デジタル遺品問題の解決

事故や急病によって、人が突然亡くなってしまうと、問題になるのがスマートフォンやパソコンの中に保存された膨大なデータの取り扱いです。他人に見られたくないセンシティブな画像や動画などが家族や友人の目に触れて、故人の名誉が害される場合もあります。逆に、ネット銀行口座のパスワードなど、残された家族にとって重要な情報が、セキュリティを頑丈にしていたために端末から取り出せなくなるトラブルも報告されています。

こうした「デジタル遺品」の問題を解消するため、たとえば、生前に特定の家族に渡したい情報や消去したい情報を設定し、ブロックチェーンに保存しておく解決策も模索されています。遺族全員が本人の死亡を認証した場合、それをきっかけにスマートコントラクトが発動し、情報が自動的に公表ないし消去されるアプリの開発も進んでいるのです。

サマリー

保存されたデータの改ざんが不可能なブロックチェーンは、冠婚葬祭といった重要なライフイベントの局面で、その特性を発揮できるものと期待されている。たとえば、婚姻証明書や遺言書をブロックチェーンで保管しておけば、その内容が半永久的に保存されるだけでなく、特定の条件を満たしたときに、内容を自動的に執行することも技術的には可能となる。

おわりに

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参考文献

結婚関連

ブロックチェーン婚?新サービス「B-marriage」は普及なるか

ブロックチェーン結婚が増加?家事の分担や離婚もスムーズに

世界初ブロックチェーンを活用したレズビアンカップル宣誓式開催レポート

米国の新郎新婦が「結婚指輪」をNFT化、イーサリアムチェーン上で永遠の愛を刻む

遺産関連

第17回 ブロックチェーンの本質的価値を改めて考える

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高齢化社会で求められる遺言状や遺産分配のDXとは / 終活のこれからを考える

遺言にブロックチェーン技術を導入したアメリカの事例と日本の電子遺言