アパレル業界で注目されている「エシカル消費」ってなに?SGDsの実現のためにブロックチェーンができること。
皆さんは「エシカル消費」という言葉を聞いたことがありますか。エシカル(ethical)とは、「倫理的な」という意味の言葉であり、「エシカル消費」とは直訳すると「倫理的な消費」という意味になります。
SDGs(持続的な開発目標)が世界的に注目される中、企業にとっても消費者にとっても、エシカル消費の重要性は増してきています。特に、エシカル消費が注目されているのはアパレル業界です。環境破壊や、新疆ウイグル自治区に代表されるような労働力の搾取などの、アパレル業界が直面する課題に立ち向かうには、「エシカルであるか?」という視点が必要不可欠です。
そして今、アパレル業界ではエシカル消費を促進するために、改ざん不能なデジタルデータであるブロックチェーンのシステムが活用され始めています。いったい、アパレル業界にブロックチェーンがどのように活用されているのでしょうか。今回の記事では、工学博士を取得し、株式会社AIGRAM代表取締役兼Fintech(ブロックチェーン)系ベンチャー企業のCTOを務めている伴直彦が、詳しく解説していきます。
目次
ブロックチェーンとは
アパレル業界とブロックチェーンは、相性が良いと言われています。実際に、ブロックチェーン技術を採用したシステムやアプリなどが、アパレルの店舗や倉庫などで活躍している例が増えています。
ブロックチェーンとは、第三者によって不正な改ざんやハッキングを技術的に不可能としている、特殊なデジタルデータです。デジタルデータは長い間、「自由に加工・変更できるからこそ便利だ」とされていました。しかし、インターネットが普及・進化して、ビジネスや政治などの重要局面でもデジタルデータが採用されるにつれて、その作成や処理は「自由に加工・変更されては都合が悪い」領域にまで進出しているわけです。そこで注目されているのが、特定の人物や企業の都合で自由に加工・変更ができないブロックチェーンデータなのです。
たとえば、ビットコイン(Bitcoin/BTC)やイーサリアム(Ethereum/ETH)などの仮想通貨(暗号資産)の技術を裏付けているのがブロックチェーンです。世界中で取引された仮想通貨の履歴が、定期的に「ブロック」として公に記録され、過去の履歴と共に「チェーン」のように連なっているイメージから、ブロックチェーンと命名されました。
このブロックチェーンは、近ごろでは仮想通貨以外の用途でも応用されています。「衣食住」という言葉があるように、人々の生活に不可欠な「衣」の営みをつかさどるアパレル業界も、現代社会で重要な位置づけを占めるようになりました。それに伴い、アパレル企業がデータが不正に改ざんされてはならない重要な局面が増えており、ブロックチェーンを組み込んだシステムが求められる例が増えているのです。
アパレル業界がブロックチェーンを希求する背景には、「エシカルファッション」や「情報収集が可能な衣服」といった新時代の要素があります。
エシカルファッションとブロックチェーン
地球環境を破壊せず、労働者からの不当な搾取も行っていない商品やサービスを積極的に購入しようとする、いわゆる「倫理的消費(ethical consumption)」の一環で、アパレル業界でも「エシカルファッション」が世界的に重要なキーワードとして普及しつつあります。
エシカルファッションは、「地球環境に優しい」原材料を使っていたり、「有害な化学物質を使っていない」「労働者を酷使していない」製造・流通過程を経ていたり、「エネルギーや水を無駄に消費していない」「廃棄の削減やリサイクルに配慮している」衣服を積極的に入手することで、消費者としての立場から持続可能な社会の実現を支援し、よりよい世の中に貢献しようとする未来指向型の消費活動といえます。
たとえば飲食業界では、食材の生産者(農家・漁師など)や、流通・加工の過程などを消費者が追跡して知ることができる「食品トレーサビリティ」の分野で、情報の改ざんが事実上不可能なブロックチェーンを採用しており、「食の安全」をICTの力で裏付けようとしています。
同じように、衣服の原材料や流通・縫製の過程を、その衣服の購入者が過去に遡って追跡し、知ることができるシステムを、ブロックチェーンを中心にして組み立て、展開させることができれば、エシカルファッションの精神を情報技術で客観的に裏付けることが可能となります。
エシカルファッションは、有名高級ブランドから量産型ファストファッションメーカーに至るまで、西暦2000年代ごろから具体的な取り組みが始まっています。
まず、石油を原料に作られる合成繊維よりも、綿や麻など植物由来の自然繊維を積極的に使っていこうという、地球環境保護(温室効果ガス削減)を目的としたエシカルファッション消費もあります。他にも、耐久性の低い布地や縫製で作られた衣服や、目先の流行ばかりを追いかけたデザインの衣服を、毎年のように買い換えるおしゃれを止めて、普遍的に良い衣服を長く愛用しようとする方向性のエシカルファッションもあります。
ただ、普遍的なデザインで耐久性もある衣服を選んで着ていたとしても、繊維や布地の生産過程や、縫製・流通などの過程で、不当に安い賃金で労働者を長時間酷使しているような場合も、やはり「労働力の不当な搾取がない」ことを理想とするエシカルファッションの精神に反することになります。
2013年に、バングラデシュの首都ダッカの郊外に建っており、縫製工場などが入居していた商業ビルが、老朽化によって崩壊する事故が起き、1100人以上が犠牲となりました。事故直前に、壁に亀裂が入っている異変が明らかに生じていて、警察からも退去命令が出ていたにもかかわらず、ビルの所有者がこうした警告を無視していたり、縫製工場の従業員が時給数十円程度で働かされていたりした事実も明らかになっています。
このような人命軽視の労働環境下で作られている衣服を流通させることについて、世界中のアパレルメーカーが危機感を抱きました。現在では労働者の酷使防止だけでなく「生産現場の管理に責任を持つ」ことも、エシカルファッションの共通認識となっています。
今まで不透明だったアパレル製品の生産現場の実態が、「衣料品トレーサビリティ」によって可視化され、もしブロックチェーンによって不正な操作が介在しないシステムを組み込むことができれば、エシカルファッションの精神が実質化していき、消費者が安心して着られる衣服がより多く流通していくものと期待されています。
また、自社製品の流通情報をブロックチェーンに書き込んで裏付けておくことは、偽造品の流通防止にも繋がります。特に高級ブランド品などの生産過程や流通過程を追跡できれば、消費者が本物のブランド品かどうかを見極められるようになるでしょう。
ブロックチェーンを活用したアパレル企業「LOOMIA」とは
米国のスタートアップ企業「LOOMIA」は、ナイロンのような素材の生地に含まれる繊維に電気を通すことに成功させました。これによって、「光るジャケット」「発熱するシャツ」などの新感覚の衣服を開発していたのです。
そして、この導電性ある繊維をさらに応用して、衣服の着用者に関する生活情報などを収集するしくみも整備しました。衣服に小型センサー入りのタグを取り付けることで、「どれぐらいの頻度で着られているか」「着用者はいつ移動しているか」「衣服周辺の気温は何度か」などを測定し、自動的に情報収集することができるようになったのです。
今までアパレル企業は、購入者へのアンケート調査によってフィードバックを得ていたものが、センサー入り衣服の実現によって、より客観性のある正確なデータとして集約させ、新商品の開発に生かせるようになったのです。あるいは、購入者の生活行動を分析することで、別の自社製品の提案や推奨もできるかもしれません。
ここで問題となるのが、衣服の購入者のプライバシーが、必要以上にアパレルメーカーに筒抜けになってしまう点です。衣服というウェアラブル端末が、着用者の生活を正確に捕捉しすぎることや、アパレル企業が無料で情報を吸い取ってしまうことなどが、着用者のQOL(生活の質)を低下させるおそれがあると指摘されているのです。
そこで、LOOMIAは、衣服のセンサーが収集した情報を自社で管理せず、イーサリアムのブロックチェーン上に書き込ませるようにしました。ブロックチェーン上の情報は暗号化されており一般には非公開であり、必要に応じて匿名化の処理もなされます。そして、情報を得たアパレル企業は、衣服の購入者にトークン(仮想通貨のような経済価値を伴うデジタルデータ)を支払うようにすることで、生産者と消費者が対等な関係を保てるようにしたのです。
消費者が主導権を取り戻し、ブロックチェーン上の自己情報をどのアパレル企業に渡し、どの企業に渡さないかを選べるようにもなるでしょう。また、企業から受け取ったトークンは、新たな衣服を購入する際に代金の足しにすることもできます。
サマリー
改ざん不能なデジタルデータであるブロックチェーンのシステムは、アパレル業界でも活用され始めています。たとえば、環境保護や労働力の搾取防止などの目標を達成している「エシカルファッション」を裏付けるため、原材料の生産から縫製、流通に至るまで、衣服ができるまでの過程をすべてブロックチェーン上に記録する取り組みが進んでいます。また、センサー付きの衣服が自動的に収集した着用者の個人情報を、ブロックチェーン上に暗号化して記録するようにし、アパレル企業が一方的に情報を吸い取れないようにプライバシーを担保しています。
おわりに
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